F5ネットワークスジャパン(長崎忠雄社長)は、ネットワークの負荷分散を行ってアプリケーションの利用を最適化するADC(アプリケーション・デリバリ・コントローラ)で、国内L4-7スイッチ市場のシェア拡大に乗り出した。2011年末の時点で、市場シェアを50%まで引き上げる方針だ。そのために、製品価格を30%程度の値下げという大幅な改定を断行したほか、販売支援制度の強化による既存販社とのパートナーシップ深耕や新規販社の開拓を進めている。L4-7スイッチ市場が堅調に推移しているなか、現段階でもトップシェアを確保する同社が、ここで一気に他社を引き離し、圧倒的なシェアで〝天下〟を獲る意気込みを示している。
販売台数を前年比3~4割増に
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| シェア拡大に意欲をみせる長崎忠雄社長 |
F5ネットワークスが大胆な策を講じたのは今年11月。製品面では、最小で22%程度、最大で約33%値下げといった価格改定を実施した。例えば、社内ネットワーク(LAN)上でアプリケーションのトラフィックを管理する「BIG─IP Local Traffic Manager」シリーズのボリュームゾーン製品「1600」は、448万円を33.3%値下げの299万円と、300万円を切る価格に設定している。
長崎社長は、「当社の製品は機能に関する評価は高いと自負している。しかし、価格がユーザー企業が導入する壁になっていた」と打ち明ける。同社の製品が高価格であるというのは、ユーザー企業の声を収集してみたところ判明した。「検討時の重要度」と、実際に導入してからの「満足度」をユーザー企業に聞いたところ、「保守コスト」「コストパフォーマンス」「製品コスト」で大きな乖離があった。つまり、検討時にコスト面を重視してF5の製品を導入したものの、値段の割には満足してないというユーザーの姿が浮き彫りになったのだ。
「価格面でユーザー企業が導入しやすくすることが重要。そこで、思い切った策を講じた」と、長崎社長は説明している。「1600」の299万円というのは、低価格を売りにする他社に引けを取らない価格設定だ。
また、同時に実施したのは販社に対する支援強化だ。販社を新たに確保する制度として「UNITYパートナープログラム」を開始した。同プログラムで、ユーザー企業にインテグレーションを手がけるSIer向け「Value Added Reseller(VAR)」、間接販売が主体のディストリビュータ向け「Value Added Distributor(VAD)」および「Distributor(Disti)」の3種類のほかに、「VAD」や「Disti」経由でF5製品を仕入れて売るインテグレータやリセラー向けの「Advantage Partner」を区分して、販社の役割を明確化。加えて、3段階のディスカウントプログラムを設置することで、売れば売るほど粗利益率が高くなるように設定した。現段階では、それぞれの販社の数は「VAR」が1社、「VAD」3社、「Disti」1社、「Advantage Partner」約20社となっている。これを近い将来に「VAR」を3~5社、「Advantage Partner」を30社程度まで増やすことを目指す。
さらに、サポート面を強化。F5の専門要員がユーザー企業先に駆けつける体制を敷いたほか、今後は販社の営業担当者に対するトレーニングの実施、ネットワーク機器とストレージを検証できるようにするなど販社が製品を組み合わせて提供しやすい環境整備を進めていく。
価格改定と販社に対する支援強化の効果は、「来年には効果が現れる」と長崎社長はみている。具体的には、販売台数として11年に前年比30~40%増と見込む。「売上高については台数ほど増えないが確実に増える。市場シェア50%を十分に獲得できる」と自信をみせている。

2009年の国内L4-7スイッチ市場のメーカー別シェア(金額)
表層深層
IDC Japanによれば、国内L4-7スイッチ市場で、F5ネットワークスは40%以上のシェアを維持している(09年のメーカー別シェア=金額ベースで43%)。現段階でも、圧倒的なシェアを誇っている。
ただ、「リーマン・ショックの影響で、ユーザー企業の多くはコスト面を気にするようになった。そのような状況のなか、いつまでも価格を据え置くのはよくない」(長崎社長)。技術の進化とともにメーカーごとの製品に機能差がなくなりつつある。他社との価格競争が過熱していることからも、「市場シェアの半分を占めるようになれば、確固たる地位を築くことができる」との判断で価格改定に乗り出したのだ。
販社にとっても、F5製品を提案するうえで、「高い」という声が案件獲得の課題として挙がっていた。“F5離れ”の雰囲気もあったようだ。とはいえ、メーカーサイドで価格改定を行えば、販社が利益面を気にする。それを考慮して、ディスカウントプログラムを打ち出したという事情がある。
IDC Japanによれば、09年のL4-7スイッチ市場規模は、前年比11.4%減の168億7700万円。しかし、今後は伸びると捉え、今年は前年比1.1%増の170億6800万円、09年から14年の年平均成長率は5.4%と予測する。
堅調に伸びる市場なだけに地位を不動のものとし、次のステップとしてストレージ機器「ARX」の販売増も見据える。ADCとストレージの両市場で存在感を高めるというのが同社の戦略だ。(佐相彰彦)