個人情報保護で大きく伸びた「メールアーカイブ製品」。不況の影響でいったんは冷え込んだものの、メールが重要な「証拠」となることから、再び需要が伸び始めている。国内では個人情報保護法近辺で多くの製品が登場した。一方で、米国での法令対応を目的につくられた製品も国内に入ってきているほか、「Microsoft Exchange Server」などに機能として搭載されている場合もあり、これらが市場で入り混じって戦いを繰り広げている。
figure 1 「製品の特性」を読む
個人情報保護で飛躍
2004年~05年、個人情報保護法が施行された頃、証跡保存を目的としてメールアーカイブを導入する企業が飛躍的に多くなった。J-SOX法の施行でもメール保存が義務化されるのではないかと、メールアーカイブ製品のメーカーは期待していたが、思惑は外れた。だが、数々の情報漏えい事件を通じて、メールが「証拠」として使えることが認識された。「メールには重要な情報が含まれており、そこで生じるリスクを法務担当者や経営層は無視すべきではない。個人情報保護対策だけでなく、ガバナンスの一環として金融業を中心にメールアーカイブ製品を導入する例が増えている」(ガートナージャパン ITインフラストラクチャ 鈴木雅喜リサーチディレクター)状況だ。製品は、大別して四つの成り立ちがある。(1)シマンテックの「Enterprise Vault」のように米国の法令対応目的で作られた海外の製品(2)個人情報保護を目的とする国内メーカー製品(3)SaaS/ASPサービス(4)メールアプリケーションに機能として搭載されているものだ。
主要なメールアーカイブ製品の販売実績(国内市場)
figure 2 「勢力」を読む
ボリュームゾーンは2群に
世界的には「Enterprise Vault」が最もメジャーなメールアーカイブ製品だ。だが、日本では、個人情報保護法に対応した国内メーカー製品が主流となっている。コンピュータシステムエンジニアリング(CSE)の「WISE Audit」、キヤノンITソリューションズの「GUARDIANWALL」、HDEの「Mail Filter」、サイバーソリューションズの「MailBase」など国産製品がリードしている。提供形態はメール誤送信を防止するフィルタリングソフトウェアとの統合製品や、オプション機能として追加するものなどさまざまだ。「GUARDIANWALL」は1998年に市場へ投入された。「WISE Audit」と「Mail Filter」の投入は03年。「MailBase」は05年にリリースされた。導入ボリュームは250~500ライセンスと1000以上の無制限ライセンスの規模が多い。最近、競合製品として市場でぶつかることが多いのが、シマンテックの「Enterprise Vault」とデジタルアーツの「m-FILTER」といわれている。
メールアーカイブ主要メーカーのボリュームゾーン
figure 3 「チャネル」を読む
二つの販路で提供
景気が回復基調にあることから、メーカーは、「今年はメールアーカイブの普及期になるのではないか」と期待している。これまでに導入したメールシステムの更改を機にTCO削減、コンプライアンス対策、セキュリティ対策としてアンチウイルスやアンチスパム、アーカイブといった総合的なセキュリティ対策を打つ企業が増えている。
メールアーカイブの提供形態には、大別すると二つのルートがある。一つは従来通りのライセンスを販社を介して流通する販路と、もう一つはSaaS/クラウドによる提供だ。自社DCを利用した独自SaaS/ASPサービスの提供や、メールサービスを提供するISPなどに対してのOEM提供。また、大企業では情報システム子会社が企業グループ全体のシステムをまとめて管理しているケースも多く、問い合わせが増えているという。
プライベートクラウドを構築するためのライセンスも提供している。ライセンス販売では流通を介して売るメーカーもあるが、多層的な販路の階層をつくらず、SIerと1次店契約で手を組んでエンドユーザーに流している場合が多いようだ。柔軟な提供方法により、顧客の選択肢を広げている。
メールアーカイブの製品・サービスの販路
figure 4 「動き方」を読む
クラウド・仮想化対応強化、海外展開も
メーカーは仮想化、クラウド提供を強化しているほか、例えばパブリッククラウドで安価なメールサービスを利用し、一方でメール保管は社内に置いておきたいといったニーズに応えるために、パブリッククラウドとプライベートクラウドを連携させる「ハイブリッドクラウド」への対応を進めている。HDEでは、「Karesansui」というOSSの仮想化管理ツールをベースに開発を進め、ハイブリッドクラウドに対応するソリューションを作り込んでいる。CSEでも、ハイブリッドクラウドに対応するとともに、他のセキュリティベンダーとの協業による共同販売施策を展開し、製品のアジア展開を狙っている。キヤノンITソリューションズは、プライベートクラウド用のライセンス体系を整備する。また、グループ会社のキヤノンMJの提供するクラウドサービスの一環として提供する方向で進めている。サイバーソリューションズは、パッケージしか取り扱っていない販社に対してクラウドの販売も促すことで、クラウドとパッケージを組み合わせた販売方法により、幅広くユーザーの需要を取り込む。また、メーカーのなかにはエンドユーザーから直接案件の深掘りしたり、想定していない使い方や、気づかなかった困りごとなどについて、エンドユーザーを直接フォローする取り組みを行っている。
メールアーカイブメーカーの今後のビジネスチャンス