アジアでナンバーワンを目指す──。日本の情報サービス産業のアントレプレナー、フューチャーアーキテクトの金丸恭文CEOは、将来構想として高らかにこう宣言する。中国やASEAN、インドの情報サービス産業の急成長を念頭に置いた発言であり、アジア市場での成長可能性と、アントレプレナーシップに強い関心を示す。アジア最大級の経済規模を誇る中国情報サービス市場は年率およそ25％の驚異的な伸びを記録しており、もはやアジア市場を無視しての日本の情報サービス産業の成長はあり得ない。

“成功体験知らぬ”では寂しい　

　上海のある地場SIerの営業部長と話をしたときのことだ。「市場が約25％で伸びているので、ボスからは、当然“市場の伸び以上の売り上げ増”を求められる。容易じゃないよ」と、プレッシャーがきついことを嘆いていた。ちなみに、その会社は年率50％増のペースで伸びている優良企業である。

　日本のある大手ITベンダーのトップにこの話題を振ると、「自分の若い頃を思い出す。日本もかつてそのくらい伸びていたんだ。勢いがあったな」と、どことなく遠い目をして語ってくれる。当時の銀行オンラインシステムや次世代超高速ATM（非同期転送モード）の全国展開、中堅・中小企業向けのオフコン販売…。

「今の若いもんに、もう少し野心がほしいのだが」とも付け加えた。“失われた20年”と青年時代がかぶる若い世代に、かつての成功体験をいくら口で伝えても、実感するのは難しいだろう。

　ここで隣国の数字をみよう。中国大手SIerで、日本のSJIの大株主でもあるデジタル・チャイナ・ホールディングス（神州数碼控股）の上半期（2010年4～9月期）の連結売上高は、前年同期比12.6％増えた。東芝ソリューションやNECなどと提携関係にあるニューソフト（東軟集団）は、10年1～9月期で14.4％増、中国最大手ERPベンダーの用友軟件は10年1～6月期で18.6％伸ばすなど、売上高は軒並み2ケタ成長となっている。若手の中国ビジネスマンは、伸びることしか知らないといってもいい。

　特定サービス産業動態統計のJISA集計版によれば、国内情報サービス業売上高は、10年7月まで前年同月比14か月連続のマイナス成長、8月にいったん1.2％増に転じたが、9月は再びマイナス0.2％に落ちた。一進一退の汲々とした状況下で“過去の成功をもう一度！”と号令をかけたところで、若手は戸惑うばかり。かたやアジアでは、成長によってアントレプレナーシップの醍醐味、おもしろさを実感する若手経営者が急増している。

　冒頭の金丸社長のナンバーワン宣言は、アジアのアントレプレナーとともに成長するという思いが込められている。今にも沈みそうな日本か、2ケタ成長が当たり前のアジア市場か。自分の身をどこに置くのかで結果は大きく違うものになる。（安藤章司）