主要SIerが相次いで強気の業績見通しを打ち出している。東日本大震災や原発事故、電力不安などの今後の影響を計り切れていない部分はあるものの、IT投資だけに絞ると「影響は限定的」(大手SIer幹部)との見方が多くを占める。被害はサプライチェーンの損壊といった供給側のダメージがメインであって、需要は大きく減っていないというのがその理由だ。国内情報サービス市場は緩やかな回復基調にあり、これに海外・新興国需要も加味すれば、伸びしろは大きいとSIer経営者はみている。(安藤章司)
NTTデータは今年度(2012年3月期)海外売上高目標を1000億円積み増し、富士ソフトは中期経営計画で連結売上高1.3倍強へ、JBCCホールディングス(JBCC-HD)今期連結売上高を前年度比7%増、14年3月期には悲願の年商1000億円超え目指す──。大手SIerは、相次いで強気の経営計画を打ち出している。
富士ソフトの白石晴久社長は、「2008年のリーマン・ショックのときは世界的に需要が落ちたが、今回は主に国内の供給力が落ちた。この違いは大きい」と、国内外の需要そのものが打撃を受けたわけではないことをプラス材料として挙げる。JBCCホールディングスの石黒和義会長は、「サプライチェーンの再構築やリスク分散の必要性を踏まえて、国内外のITシステムの見直しによる需要が、むしろ拡大する」と、強気の姿勢を崩さない。
もちろん、不安要素もある。産業全体を見渡すと、震災の被災地や原発事故のダメージの影響は決して無視できない。例えば、半導体などハードウェアの生産ラインをもつ富士通は、「富士通の生産能力は完全に立ち上がったが、不確定要素がまだ多い。合理的な業績予想の算定が難しい」(富士通の山本正已社長)と、今期見通しを示すことができていない。また、コアの種村良平会長は、「人口減少や財政危機など、かねてから国内市場が抱える課題や脆さが、震災によって隠れてしまうことのほうが怖い」と、警鐘を鳴らす。
事実、NTTデータは12年3月期連結売上高のうち、国内は約600億円減少するとみている。内訳はNTTデータ単体ベースで約400億円、グループ会社で約200億円の減収を見込む。大型案件の端境期や震災の影響で案件の凍結・延期などによるものだが、その分、海外で1000億円ほど売り上げを増やすことで、国内外トータルでは400億円近く伸ばす計画だ。NTTデータの山下徹社長は、「もともと国内ではGDPの伸び率を大きく上回るような成長は難しい」とみており、業界に先駆けて海外進出に力を入れてきた。直近でも、2010年末に米Keaneをグループ化したのに続き、今年4月にはイタリアのValue Teamの子会社化を決めている。
JBCC-HDは、今期(12年3月期)連結売上高は前年度比7.0%増の880億円、営業利益同27.8%増の16億円の大幅な増収増益の見通しを示したうえで、中国やASEAN市場への進出をより一層強化する。今年5月には中国で四つ目の拠点となる北京オフィスで本格的な営業をスタート。向こう5年程度で連結売上高の10%を海外で売り上げる目標を掲げる。製造業向けSIに強い東洋ビジネスエンジニアリングは、リーマン・ショック後の製造業不振で苦しんだものの、2011年3月期の連結売上高は前年度比8.3%増と回復。同社の片山博取締役は、「震災の影響で不透明感が強い」としながらも、今期増収増益の計画達成に向けて、「中国・ASEANの生産管理レベルの向上に伴うシステム投資の増加に期待する」と、グローバル化の波に乗ることで国内の難局を乗り切る構えだ。
短期的にはサプライチェーンや事業継続プラン(BCP)の再構築や見直し、データセンター(DC)を活用したクラウド活用によるリスク分散などの需要増が期待できる。だが、その反面で、成長余地が乏しい国内市場の課題は残されたままだ。ITにおける真の意味での震災復興は、国内市場で利益を出せるビジネスモデルの変革とグローバル化なしには、到底達成できそうにない。
主要SIer、強気の見通し示す
表層深層
主要SIerの手応えの根拠になっているのが、足下の受注状況である。調査会社のIDC Japanは、国内IT市場は2011年、震災の影響を織り込んだうえで前年比4.5%減になるとの予測を発表しているが、野村総合研究所(NRI)の嶋本正社長は、受注状況から察して「にわかには実感が湧かない。そこまで落ちないのではないか」と、首をかしげる。事業統合効果もあって、今期増収増益を見込むJFEシステムズの菊川裕幸社長は、「直近の受注活動で、震災の影響は直接には出ていない」と話す。
しかし、情報サービス業は、景気遅効性が色濃く反映される特性がある。多くのSIerは下期(2011年10月~2012年3月期)に受注が偏る傾向があり、実際、震災によって案件が延期となっても、下期に売り上げにつなげる腹づもりで予算を組んでいる場合も少なくない。現実問題として、東京電力福島第一原子力発電所の影響で、中部電力浜岡原子力発電所も停止することになった。「今夏の節電が失敗したら…」「渇水で頼みの揚水発電ができなかったら…」「生産活動が滞って大不況になったら…」と、不安が不安を呼び、遅効性が下期を直撃する危険性もある。
富士ソフトの白石晴久社長は、「予測できない将来のことをいくら心配しても何も始まらない。クラウドやグローバル化、独自プロダクトの強化など、これまで取り組んできた改革を推し進める」と、慌てず、動じず、地に足のついた戦略を推進することが大切だと説く。