日本最大のネットワーク展示会「Interop Tokyo2011」に併設された「デジタルサイネージジャパン2011」。最終日は好天に恵まれ、盛況を博した。特定の人に対して必要な情報を届けるというデジタルサイネージの価値が、震災によって見直されている。デジタルサイネージは、情報インフラとして浸透し始めたのだ。注目すべき動きとして、低価格製品が続々と登場していることが挙げられる。とくに大手ディスプレイメーカーが低価格路線に走り始めたことで、ローエンドの市場は激戦の様相を呈している。(鍋島蓉子)
大手メーカーの低価格帯参入で激戦の様相
東日本大震災後、首都圏を中心とする節電要請によって需要がしぼむのではないかと危ぶまれたデジタルサイネージ。確かに、ディスプレイを設置していた機関、店舗では放映再開に様子見をしていたケースもあったようだが、5月の連休前後から、放映を再開したところも多い。
「もしクライアント企業が広告を自粛するケースがあるとしたら、それは部材の調達の問題などによって製品を供給できない製造業の会社に限られるだろう」と、デジタルサイネージコンソーシアムの江口靖二常務理事は、広告需要の状況について話している。とくに首都圏市場では今のところ大きな影響を受けることなく、堅調に推移している。エリアでいえば、関西地区におけるデジタルサイネージは飛躍的な成長をみせている。JR大阪駅には、日本最大の集積率となる300ディスプレイの導入が進んでいる。
大震災を機に、これまで広告媒体の色彩が濃かったデジタルサイネージを、緊急時に使えるメディアとして発展させるにはどうしたらいいかという新たな利用シーンの模索、それに伴う課題にデジタルサイネージを手がけるベンダーは取り組み始めている。今回の地震発生時には、一部の駅などで契約にもとづきNHKや列車運行情報をディスプレイに表示した。必要な情報を利用客に伝えるための情報インフラとして、その存在意義を発揮したのだ。
デジタルサイネージには、昨年頃から新たな動きが出始めている。大手メーカーや通信キャリアも参入しての低価格競争だ。
NTTグループはデジタルフォトフレームを活用したデジタルサイネージソリューション「ひかりサイネージLite」の発売を5月に開始した。また、日立製作所は、従来からのパートナーであるスカラの配信サービスの販売を開始すると発表。パナソニックは、同社の薄型テレビ「VIERA」にセットトップボックス(STB)を搭載したオールインワンソリューションを発売する。いずれも低価格のサービス、製品である。
前出の江口常務理事は「ハイエンド機器も一定の市場を確保しているが、数量的には安くて手軽に始められるデジタルサイネージシステムが売れている。昨年から、低価格化の傾向が強まっている」としている。
「デジタルサイネージジャパン2011」に出展した三菱電機グループは、同社のPCディスプレイ「VISEO」にSTBを内蔵し、専用ソフトウェアも同梱した小売り・流通向けの薄型サイネージシステム「VISEO SMART」を発表し、7月に販売する予定。23インチのディスプレイで非常に薄いので、エレベーターの横や売り場、コンビニなどでの据え置きや壁掛け需要にも対応する。三菱電機戦略事業開発室室長代理映像プロジェクト担当の阿良田剛氏は「映像系ソリューションを販売するSIerや代理店経由での販売を計画している。また、もともとVISEOはPCモニタなので、家電量販店での販売も視野に入れている」と話す。
値段は11万円台で、個人事業主がすぐに手が届く価格まで、デジタルサイネージは身近なものになっている。大手ディスプレイメーカーの参入により、低価格レイヤーのデジタルサイネージシステムは、今後激戦区となりそうだ。

「デジタルサイネージジャパン2011」で、三菱電機グループは低価格サイネージを展示した
表層深層
中小企業向けのデジタルサイネージを手がけているベンダーには、「大手ディスプレイメーカーは自社のディスプレイを売りたいので、システムが高額になる」との殺し文句があった。確かに、大手ディスプレイメーカーは、大型の商業施設や電車の社内などを対象にシステム構築なども含めて導入しているケースが多かった。
手軽にデジタルサイネージを始められる低価格パッケージ戦略を最初に展開したのは、「ハルヱとケイジ」でお馴染みの日本サムスンである。2008年の発売から、6000台以上(2010年9月現在)が全国で稼働している。ディスプレイに内蔵しているUSBポートからコンテンツを挿入、PCで簡単にコンテンツをつくることができる専用ソフトを同梱し、破格な価格を実現。家電量販店で販売する戦略は業界に大きなインパクトを与えた。
拡大する“お手軽デジタルサイネージ市場”、参入するのは大手メーカーだけではない。PCの周辺機器を手がけているグリーンハウスも、今年、本格的に低価格市場を狙ってデジタルサイネージに参入している。同社は、観光などさまざまな業種別のソリューションをつくることで、差異化を図っていく方針だ。
今や家庭用の薄型テレビ程度の価格でデジタルサイネージが買えてしまうということで、低価格化の傾向はいっそう強まってきている。大手ディスプレイメーカーや通信キャリアが低価格市場に参入してきており、メーカーの間で市場での棲み分けがしづらくなっている。