日本IBM(マーティン・イェッター社長)は、1月に公表した「ソフトウェア事業戦略」にもとづき、新たなパートナー施策を本格的に開始した。パートナー経由の販売量を増やし、世界のIBMと比べて低い日本IBMのソフトウェア販売比率を高める戦略だ。IBMのサーバー製品などを販売するパートナーに対して、同社のソフト製品と融合させて顧客に付加価値提案をすれば、インセンティブ(報奨金)を特別付与するなど、ソフト販売の強化策を相次いで打ち出す。パートナー支援投資を大幅に拡大することで、粗利の高いソフト販売比率を高め、業績全体を底上げする狙いだ。(谷畑良胤)
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| ソフトウェア事業担当のヴィヴェック・マハジャン専務 |
日本IBMが1月下旬に発表した「ソフトウェア事業戦略」では、対象を「新世代ミドルウェア市場」と称し、市場規模を約3兆5000億円、そのうちパッケージが占める割合を800億円程度と独自に試算。ただ、依然としてカスタム開発が大半を占めていることもあって、「変化に迅速に対応できる販売システムになっていない」(ヴィヴェック・マハジャン専務)と、同社がソフトを販売できる余地は、まだまだ大きいと判断している。
パートナーとの協業施策としては、新たに三つのプロジェクトを開始している。一つは、「ギアボックス」という名称で、IBMのハード製品を主体に、協業するパートナーに対して同社ソフトの付加価値への理解とスキルを磨く支援策を施し、ソフト販売比率を高めるプロジェクトだ。IBMのハードウェアとソフトウェアを融合して販売したパートナーに対しては、販売数に応じて報奨金を支給する。
二つ目は、広域特化協業推進モデル「Business Partner Led Model」という、ミッドマーケットにおける地域パートナーの、IBMソフトウェア製品の新規販売・再販に関する支援策だ。同社とビジネス目標、案件創出の活動や販売の進捗度合を共有し、「各案件の勝率を引き上げる」(マハジャン専務)。最後の一つも、新インセンティブプログラムの一環で、スマーターコマースやビジネス・アナリティクスなどに関連するIBMの「ハイバリュー製品」を効果的に販売するプログラムで、これらをハードなどと一緒にソリューション販売すると、ミドルウェア分などの10%程度の報奨金を付与する。
この協業施策に参画したパートナーに対しては、「スキルアップ」「案件発掘」「提案」「成約」の各段階で支援プログラムを用意した。例えば、案件発掘段階では、東京・渋谷の「IBMイノベーション・センター」で「案件発掘Day」と題し、事例やセリング・キットの紹介、短期間で案件発掘する方法などを伝授。また、「IBMソフトウェア・マーケティング支援金プログラム」として、IBMミドルウェアの新規案件発掘を目的とした販売促進活動などの費用の50%を支援する。
成約の段階では、複数の報奨金プログラムを順次開始している。「Software Value Plus(SVP)」は、対象製品の販売認定をもつパートナーを対象にした「インダストリー認定」と「ケーパビリティ認定」だ。前者は、航空宇宙・防衛や自動車、銀行など対象業界向けに高いスキルをもつ認定パートナーが、自社アプリとIBMミドルウェア製品を組み合わせて付加価値販売をした際に得られる「Software Value Incentive(SVI)」の報奨金が、大幅に上がる制度だ。後者は、IBMが注力するビッグデータやソーシャル・ビジネス、セキュリティなどの情報技術分野で高いスキルをもつパートナーを認定し、販売実績に応じて報奨金を出す仕組みだ。
日本IBMのソフトウェアパートナー向け支援プログラム

新たなプログラムに参加するには、「IBM PartnerWorld」の正規メンバーであることなどが条件となる。現在、IBMのハードウェアとSVP認定のパートナーは、それぞれ約300社。マハジャン専務は「まずは既存パートナーを活性化し、新規パートナーを順次拡大する」と、国内ソフトウェア市場の拡大に向け、チャネルを再構築する考えだ。
表層深層
米IBMは、世界のソフトウェア販売の税引前利益率を2015年度(15年12月期)までに、現在の43.5%から50%に引き上げることを目標にしている。同社の世界でのソフトウェア売上高は、2011年度(11年12月期)の全売上高に対する比率が23.5%に達している。これに対し、日本IBMのソフト売上高の割合は、半分程度とみられている。
その理由は、依然としてスクラッチ(手組み)開発の比率が高く、パッケージやクラウドサービスに移行できていないことにある。また、日本市場に限ったことではないが、米IBMの幹部に聞くと、IBMのパートナーはハード志向が強く、ソフトとの「融合」販売が遅れているという。
ソフトウェアは、大きく成長した。だが、企業における生産性向上などビジネス上の課題解決を促すはずのソフトの販売は、依然低調だ。これを全世界で拡大するのが、今回の新戦略だ。日本市場では、オフコン時代を牛耳った“AS/400の呪縛”というべきか、ハード販売の恩恵が忘れられないパートナーが多い。この意識改革を促すために、大枚をはたいてパートナー支援を行うのだ。
日本IBMは今年4月の社長交代から、日本市場に応じた固有の販売戦略だけでなく、世界のIBMの“しきたり”に従って動く展開を本格化。注目されるのは、パートナーの力を最大化し、同社のリソースを最小限にする方向に動いている点だ。大きな業態変革を果たそうとしていることは間違いない。