中国で9月中旬、「領土問題」を発端とした大規模な反日デモが100都市余りで巻き起こった事件は、現地で手広く事業を展開するITホールディングス(ITHD)グループのTISに大きな衝撃を与えた。

水谷芳利常務 海外事業を担当するTISの水谷芳利・常務執行役員は、中国法人を通じて刻一刻と集まる情報を慎重かつ迅速に分析し続けた。激しいデモに、中国事業の不透明感が一気に高まるかにみえたが、水谷常務の出した結論は、「中国を含む海外事業計画は変更する必要なし」というものだった。
企業経営でポイントになるのは、2~3年後の展望を見出せるかどうかだ。水谷常務の判断は、すでに織り込み済みのカントリーリスクの範囲内だと読み取ったもので、現段階で中国事業の中期的な展望が大きく崩れたとは受け止めていないことがうかがえる。
ただ、影響がないわけではない。TISは沿岸部の人件費高騰に伴い、内陸部の西安にソフト開発や運用の拠点を開設している。西安には同様の理由で韓国のサムスン電子がフラッシュメモリ工場の建設を推進。第一期工事の投資額は70億ドル(約5600億円)、将来的に160社規模の関連企業が進出してくることが見込まれるなど、IT関連の産業集積が急ピッチで進む。すぐれた人材は、こうした企業群で「奪い合いが起きている状況」(TIS西安拠点の劉誠総経理)だ。ただでさえ激しい人材獲得競争にあって、一連の反日感情の高まりで日系企業の人気が陰ることも懸念されている。(つづく)(安藤章司)