国産の大手コンピュータメーカーは、ハードウェアやソフトウェア、構築ノウハウを一つの機器に盛り込んで提供する「垂直統合型」製品を相次いで発売した。10月に日立製作所が「Hitachi Unified Compute Platform(UCP)」を投入し、12月6日には、富士通が「Dynamic Integrated Systems」を発表した。NECも、垂直統合型製品を開発中だという。国産メーカーは、垂直統合型製品を先行発売しているオラクル(Exaシリーズ)やIBM(PureSystems)の外資系ベンダーに追随するかたちで、市場開拓に取り組んでいく。国産メーカーの参入によって、国内の統合プラットフォーム市場が本格的に立ち上がることになる。インテグレータは、いち早くその動きに着目し、対応策を練る必要がある。(ゼンフ ミシャ)

ストレージ企画部
藤井啓明部長 「端的にいえば、『UCP』のコンセプトはIBMの『PureSystems』に近い」──。今年10月、クラウド基盤を構築・運用する統合プラットフォーム「Hitachi Unified Compute Platform(UCP)」を発売した日立製作所 情報・通信システム社でストレージ企画部を率いる藤井啓明部長は、「UCP」の構成やラインアップが日本IBMの競合製品に似ていることを明らかにしている。
「UCP」は、日立製作所の米国子会社で、ストレージ事業を手がける日立データシステムズが開発したもの。2010年から米国のユーザー企業とともに検証を行い、改善すべき点を開発に反映して、日本市場向けの製品を実現したという。ラインアップは、サーバーやストレージ、ネットワーク機器、基本ソフト(OS)などを統合するIaaS製品と、システム運用管理用ミドルウェア「JP1」を含めたPaaS製品の二つだ。「今後、大量データを分析・活用するためのミドルウェア/アプリケーションを統合している製品も出す」(藤井部長)と計画を語る。
一方、日立製作所が強く意識している日本IBMは、今年4月に「PureSystems」を発表した。IaaS製品とPaaS製品に加え、10月に大量データの処理に適したプラットフォームも発売した。さらに、「PureSystems」の営業を担当する専任組織を立ち上げており、速いスピードで直接販売に取り組み、さらには間接販売の拡大に向けたパートナー開拓を推進しているところだ。
日立製作所は、製品面だけではなく、販売戦略に関しても、日本IBMとの共通点が目立つ。専任組織は現時点で設けていないが、藤井部長は、「システム・ソリューション部門の営業部隊が『UCP』の提案を行い、直に販売する」と説明する。また、「パートナーにも『UCP』を売ってもらうように、SIに工数をかけず、アプリケーション開発の上流工程にリソースを集中し、システムを構築することができるものとしてアピールする」という。こちらも、直販とパートナー販売の両方を柱として、パートナーがシステムを構築するというよりもアプリケーション開発に力を入れることを促す日本IBMの戦略と酷似している。
日立製作所に続いて、12月に富士通が、垂直統合型製品の市場に本格参入することを公表した。同社は、統合プラットフォーム「Dynamic Integrated Systems」を投入し、製品化の第一弾として、データベースシステム「FUJITSU Integrated System HA Database Ready」を発売した。NECも現在、プラットフォーム事業製品戦略の一環として、垂直統合型製品の開発を推進中という。
国産メーカーが揃って外資系を追いかけ、垂直統合型製品を展開しようとしていることは、国内の統合プラットフォーム市場が本格的に立ち上がることを意味する。そんな状況にあって、SIerにとっては、垂直統合型製品はもはや無視できず、垂直統合型製品の普及に伴う従来型SIの需要減少をいかに補完するかが、喫緊の課題になっている。
日立製作所の藤井部長は、「垂直統合型製品の上で行う基幹系のシステム構築は絶対に残る」と断言する。SIerは、垂直統合型製品が普及する可能性が高いことを早期にも念頭に置き、基幹系アプリケーションをはじめとする開発スキルを磨いて、「垂直統合型の時代」に備えることが求められている。
表層深層
IBMの「PureSystems」やオラクルの「Exaシリーズ」に代表される垂直統合型製品は、米国が発祥の地だ。日立製作所も、「UCP」を米国で開発し、現地で先行検証を行うというステップを踏んで、日本で発売したという経緯がある。
米国では、ユーザー企業が自社でシステムを構築するやり方が主流となっている。プロ集団としてシステム構築を手がけるSIerを利用する習慣は、日本ほど根づいていない。IBMやオラクルは、米国の状況に対応し、「構築コストを抑えることによって、自社IT部門の人件費を削減する」という考えにもとづき、垂直統合型システムを開発してきた。
一方、日本ではSIerがメーカーとユーザーをつなぐ役割として、確たるポジションを占めている。販売パートナーとして、メーカーにとっては不可欠な存在だ。そのため、「垂直統合型製品では、SIの一部を機器に“アウトソーシング”することができる」という(米国では有利になる)アピールポイントは、日本ではなかなか響かない。メーカーは、垂直統合型製品をいかにSIerに商材として訴えることができるかに頭を悩ませている。
一つのキーとなるのは、SIerのアプリケーション開発力の向上をメーカーが支援すること。そうすれば、SIerは、メーカーにサポートを受けながらアプリケーション開発に舵を切り、垂直統合型製品の取り扱いをきっかけとして、縮小傾向にある従来型SIに第二の柱を立てることができるようになるはずだ。