プリンタ事業の改善は喫緊の課題だ──。3月28日にOKI(沖電気工業)が開いた経営説明会で、川崎秀一社長は強い調子でこう述べ、固定費削減などによる構造改革と新領域の早期立ち上げを約束した。プリンタ事業の中核子会社であるOKIデータの平本隆夫社長も「ここ6年の収益悪化は明らか」としたうえで、ガバナンスを欠いた経営体質について詫びた。ただ、国内に関しては、主要の大手流通卸が4月からOKIプリンタの取扱量を増やす方針で、伸びを見込むことができる。改革費用が計画通りであれば、反転攻勢の姿がみえてくる。
OKIのプリンタ事業は、昨年発覚したスペイン販売子会社の不適切な会計処理の修正で、2009年度(2010年3月期)から4年連続の営業赤字に陥っている。12年度(13年3月期)はスペイン影響や子会社整理に伴う特別損失、タイ洪水のリカバリ費用、円高差損を含め、営業損益が95億円の赤字になる見込み。平本社長によれば「営業損益10億円程度の赤字というのが実力値だ」と、特殊要因を除いても赤字体質から抜け出していないことを認めた。
OKIデータは、ここ数年、悲運にみまわれていた。11年のタイ洪水で生産工場が浸水し、A4シングルプリンタを中心に、数か月間、出荷が止まった。これに円高が為替差損を呼び込み、スペイン子会社の不正会計処理がダメを押した。同社は、09年までの2年半で、世界で一斉にSCM(サプライチェーンマネジメント)改革を断行し、棚卸在庫を半減させる成果を上げた。当時から現在まで、シングルプリンタの領域では、世界的にプリンタ販売台数が減少傾向にあるなかで、シェアを順調に伸ばしている。特殊要因がなければ営業黒字がみえていただろう。ただ、川崎社長は「管理会計がなされていなかった」と、自らを戒めた。
計画では、販売台数が減少する市場環境にあっても、「安定収益を確保できる体質へ構造改革する一方で、新領域へ参入して新事業分野を早期に立ち上げる」(川崎社長)という。具体的には、12年度の売上水準(1110億円)で黒字体質の事業構造を構築し、商品・販売戦略を見直す。
構造改革では、13年度中にSCM、倉庫などの改革や間接部門のシェアード化、世界の工場内の業務改革を進め、人員も海外を中心に700~800人の人員を削減。間接固定費の削減効果は、13年度で20億円、14年度以降で25~30億円になる計画だ。
注目すべきは、コスト削減の一方で成長戦略をどう描くかだ。実情をいえば、主力のシングルプリンタ市場は販売台数が年々減少している。そんななかにあっても独自のLED(発光ダイオード)プリンタは、メンテナンス性のよさが浸透し、徐々にシェアを伸ばしているが、ここに安住せずに次の戦略を打つ。

経営説明会で同席したOKIの川崎秀一社長(左)とOKIデータの平本隆夫社長 現在、ドキュメント機器領域で成長分野である複合機(MFP)市場向けに新商品を投入するほか、プロ向けプリンタ「MICROLINE」をエンハンス(機能改良)して、特殊トナー・加工に対応する新商品を投入する。
MFPに関しては、「Open API」を搭載してソフト製品を簡単に連携できる「大型商品を13年度中に出す」(平本社長)ほか、不足する製品群を12年6月に共同開発で提携した東芝テックからOEM供給を受けて対応する。本紙の質問に対して平本社長は「コピー系のMFPと競合する」ことを暗に認めている。同社のMFPは、LEDの特性を生かしてメンテナンスが容易で、競合他社のようにAPIを自社製品だけに限定せず、自由度が高いところを売りにする。
販売では、「カウンターチャージ」で課金するモデルも投入し、ディーラーに利益をより多く供与する。直販では、銀行、流通サービス、官公庁など、OKI本体が得意とする分野での共同販売を本格化する。
固定費削減は、一度SCM改革を行っているので早期の改善が可能だろうし、人的側面も含めてリストラによるコスト削減効果は早いうちに望めそうだ。シングルプリンタの販売が12年度並なら、MFPなど新商品の投入次第で再浮上は可能だろう。プリンタ市場の減少傾向が続くなか、OKIの必死の対策ぶりは、競合他社にとっても決して対岸の火事ではないはずだ。(谷畑良胤)