米メディアのウォール・ストリート・ジャーナルとCRNは、4月18日(現地時間)、米IBMがx86サーバー事業をレノボに売却する交渉を行っていると報じた。日本IBMはこの報道に対して、「噂にはコメントできない」(広報)としているが、過去のIBMの戦略を振り返ると「ない」とは言い切れない。技術的な差異化要素を失ったハードを次々と売却してきたIBMが、x86サーバーを次の売却対象にしても不思議ではない。この報道に対するIT業界の見方を紹介するとともに、今のx86サーバー市場を考察する。
「悪影響はない」。今回の報道内容が事実になったと仮定して、全国でも有数のIBMパートナーのトップはこう断言した。「Power(IBM Power Systems)だったら話は別だが、x86サーバーであれば影響はない」。また、サーバー市場の調査を得意にするノークリサーチの伊嶋謙二社長は、「x86サーバーはコモディティ化した。IBMが自社でつくることは優先度が低いと判断したのかもしれない」との見方を示している。
これらの発言からは、現状のx86サーバーの立ち位置がわかる。「x86サーバーは、極端にいえば、誰にでもつくることができる汎用品。メーカーにとっては独自性を出しにくく、差異化を図ることも難しいだろう。売り手の私たちにとっては、どのメーカー製品でも、さほど差はないと感じている」。だからこそ、IBMがx86サーバーの開発・販売事業をレノボに売ったとしても影響はないと、前出のIBMパートナーは断言したのだ。
x86サーバーは、複数あるサーバーの種類のなかでも、最も販売台数が多い。しかし、メーカーにとっては決して市場環境が良好とはいえない。理由は主に二つある。
その一つは、ライバル会社との差異化が難しくなっていることによって、価格の叩き合いが起こり、低価格競争に陥っていること。二つ目が、仮想化技術の浸透による販売台数の減少。1台のサーバーで、複数のシステムを仮想化技術を活用して稼働させることができるようになったので、販売台数が伸びず、マーケットサイズは縮小している。ノークリサーチのデータによると、2012年度上期の国内PC(x86)サーバー市場は、出荷台数ベースで4.4ポイント減、金額では7.9ポイント減となった。メーカーは、市場が縮小しているなかで低価格競争に勝たなければならないのだ。
こうした厳しい状況であれば、過去にコモディティ化したハードウェア事業をいくつも手放し、ソフト開発・販売とITサービス事業の強化が基本戦略であるIBMが、次の売却対象としてx86サーバーに着眼しても不思議ではない。IBMが実際に、x86サーバー事業を売却するかどうかは現時点では定かではない。だが、x86サーバーという情報システムをつくるうえで重要なハードウェアが、メーカーのビジネスでは厳しくなっているのは事実だ。
この状況は、10年ほど前のパソコン事業を取り巻く環境と似ている印象を受ける。米調査会社のガートナーは、2004年、パソコン上位10社のうち3社が市場から撤退するという予測を発表した。その当時、パソコンは隆盛期だっただけにIT業界を騒がせたが、実際にIBMとゲートウェイ、富士通・シーメンスが姿を消した。
一方で、この厳しい状況でも鼻息が荒いメーカーも存在する。国内シェア第4位にいるデルの郡信一郎社長はシェアが低下していることについて、「今のままでいいとはまったく思っていない。逆襲する」と断言し、厳しい市場環境を認識しながらも、シェアを奪取する姿勢を鮮明にしている。
市場の縮小と技術的差異化要素の欠如──。競争が激しさを増すのは確実で、淘汰の波がx86サーバーメーカーに押し寄せそうだ。今回の報道は、その序章にみえる。(2013年5月7日記)(木村剛士)