中国における地場市場向けSIビジネスの苦戦が続くなか、日系SIerが提供する経営コンサルティングサービスが受注を伸ばしている。野村総合研究所(NRI)は中国の都市インフラ輸出支援で北京のマスターデベロッパー(1級開発者)と提携。京セラコミュニケーションシステムグループのKCCSマネジメントコンサルティング(KCMC)中国法人は2012年6月の設立だが、同社の森田直行会長は、「初年度赤字を見込んでいたけれど、フタを開けてみると結果は黒字だった」と、予想を上回る引き合いに驚きを隠さない。中国の地場ユーザーは日本のベンダーに何を求めているのか──。
中国地場のユーザー企業や官公庁からの受注は、中国に進出する日系SIerの悲願である。だが、2012年9月の尖閣諸島を巡る日中政治摩擦以降、ハードルは高止りのままだ。多くの日系SIerは、中国で日系ユーザー企業に焦点を当てた営業を展開したり、日本向けオフショアソフト開発でベースとなる収益基盤の確保に努めている。

KCMC
森田直行 会長 こうしたなかにあって、経営コンサルティングサービスは、中国の地場ユーザー企業や官公庁向けにビジネスを堅調に伸ばしている。京セラの「アメーバ経営」を継承するKCCSマネジメントコンサルティング(KCMC)は、2012年6月に中国法人を設立。KCMCの森田直行会長は、「当初は設立2年は赤字だろう」とみて、資本金は500万元(約8500万円)とした。中国のコンサルティング専業会社にしては巨額の資本金で、多少の赤字が続いても経営が傾かないように準備していたことがうかがえる。ところがこの中国法人は「初年度から黒字」(森田会長)と好スタートを切る。
野村総合研究所(NRI)は、直近の中国地場企業や官公庁領域のビジネスに限っていえば、コンサルティング事業のほうが優勢だ。同社は今年3月、北京市の副都心開発の計画が進む「北京科技商務区」のマスターデベロッパーの北京科技商務区建設との提携を発表。日本からの都市インフラ輸出に関する支援活動に取り組む。一方、昨年度(2013年3月期)の地場向けのSIビジネスは、「ASEANなど他のアジア成長市場に比べれば厳しかった」と、嶋本正社長は振り返る。

NRI
嶋本正 社長 日中の緊張関係が続くなか、中国の自治体や企業は、日本企業との距離の置き方に神経を尖らせている。「お上の逆鱗に触れるくらいなら、いっそのこと距離を置きたい」と考える自治体や企業があっても不思議ではない。それでもKCMCやNRIと組みたいと申し出るのはなぜか。最大の理由は「経営ノウハウの吸収」である。
KCMCの森田会長は、中国で精密機械や寝具、流通小売、システム、ゲームソフトなどそれぞれの分野の有力企業のコンサルティングをここ1年ほどの間に手がけた率直な感想として、「中国企業の経営は、まだ改善の余地が大きい」というものだった。具体的には「会計の数字が不正確」だったり、経営トップの意識が「販売」のほうに意識が向きすぎて、「製造」や「コスト」を軽んじたりする傾向がみられたという。中国市場は成長が鈍化したとはいえ、日本に比べれば遥かに高度成長で、消費市場の規模そのものも巨大。「どんぶり勘定」でも、まだ何とかなる局面にある。
中国は、ノウハウや技術を身につけた後は、基本的に自分たちで完結させたいと考えるお国柄。NRIやKCMCのコンサルティングが中国で売れるのは、それだけ付加価値が高く、自分たちにはないものだと認識していることの現れでもある。とはいえ、コンサルティングは構造的にコンサルタントの人員数以上に売り上げは伸びない。KCMCは「人員の都合上、常に2~3社の顧客に待ってもらっている状態」(森田会長)とうれしい悲鳴をあげる。もし、これを受注規模がより大きいSIにつなげられれば、コンサルを切り口とした新しい営業スタイルを中国で確立できるはずである。
NRIの本社には「乾坤一擲」と筆書きされた額が掲げられている。コンサルティングの旧野村総合研究所と、SIの旧野村コンピュータシステムが1988年に合併したとき、研究所の「研」とコンピュータの「コン」が一緒になって大勝負を賭けるという当時の意気込みを示したものだ。日本ではコンサルティングとSIの連携は、とくに産業分野で大きな成果を出した。事実、コンサルティングを切り口とした営業を重視している日本のSIerは多い。中国でも、地場の市場開拓の有力な手段として生かすことができる可能性は大きい。(安藤章司)