日立製作所グループの主要SIer2社のグローバル化が進展している。日立システムズは米キュムラスシステムズをグループに迎え入れることで、北米での営業やマーケティング力を獲得。日立ソリューションズはERPの「Microsoft Dynamics」事業で北米を起点とするグローバルでの販売体制を構築した。前者はM&A(合併と買収)、後者は日立グループ内で事業移管を受けた。これまで中国/ASEANが主な進出先だったが、欧米やインドへの足場固めにも乗り出したかたちだ。その狙いを探ってみると──。
米ソフト開発ベンダーのキュムラスシステムズは、2012年11月に日立システムズグループの傘下に入った。このとき両社の間で立てた共通のゴールは「日立システムズというドメスティックな会社をグローバルカンパニーにすること」(キュムラスのアルーン・ラマチャンドランCEO)だった。

キュムラス
アルーン・
ラマチャンドラン
CEO キュムラスはストレージの性能分析ツール「MARS」を北米で販売し、開発と運用は主にインドで行っている。北米では日立製作所のストレージ向けにも販売し、「高橋さん(高橋直也・日立システムズ社長)とは、彼が日立製作所でストレージを担当していたときからの仲」(ラマチャンドランCEO)だったことがきっかけで、日立システムズのグローバル化の役割を担うことを引き受けた。
「MARS」は、北米を中心に120社ほど納入してきた実績をもつストレージ業界では知名度が高い分析ツールである。ラマチャンドランCEOは、グローバル化でポイントとなるのは「イノベーションの情報を北米から発信すること」だと説く。つまり、イノベーションが伝播する“チャネル”のようなものがあり、ITの世界では米国を発信源として世界へ伝播する流れがすでにでき上がっている。「日本にも少なからぬイノベーションがあるが、残念ながら伝播のチャネルに乗せられずに人知れず消えていくことが多いのではないか」と氏はみる。だからこそ、キュムラスは北米に拠点を置き、開発・運用はインドで行う事業モデルを展開した。

日立ソリューションズ
アメリカ
マイク・ギリス
COO 日立ソリューションズは、ERP(統合基幹業務システム)の「Microsoft Dynamics」事業で、北米を頂点とする販売体制を構築。日立ソリューションズアメリカのマイク・ギリスCOOは、「欧米で培ったノウハウを日本やアジアに展開する」として、北米から世界に展開する流れをつくる。米国の傘下に日本と北米、欧州、インド、中国を置くフォーメーションで、この7月にはインドに現地法人を立ち上げた。インド市場へは米国とインド法人が組み、中国は日本本社と中国法人の日立解決方案と連携して販売する。
ERPはSAPを例に挙げるまでもなく、グローバル標準化が進んでいる分野だ。日立ソリューションズでは、グローバル対応ERPとして「Microsoft Dynamics」を選定し、先進的ITの発信地である北米を軸に世界展開を進める。同社の2012年の世界での「Microsoft Dynamics」事業の売上高は約47億円だったが、2015年には200億円を目指す。内訳は北米が68%、欧州9%、日本・中国で18%、ASEAN・インドその他で5%と見込んでいる。
日立システムズ、日立ソリューションズともに日本を代表する大手SIerで、アジア地域には現地法人や販売網を手広く展開している。だが、今回のように、キュムラス「MARS」、ERP「Microsoft Dynamics」といったプロダクトやサービスを切り口にグローバル化するには、キュムラスのラマチャンドランCEOが指摘するような“イノベーションが伝播するチャネル”に乗せていく必要がある。今回、北米を起点とする販売チャネルを打ち立てたことで、両社のグローバルビジネスは新しい局面を迎えたといえそうだ。(安藤章司)