ITホールディングス(ITHD)グループのTIS(桑野徹社長)は、強みとするデータセンター(DC)事業をテコに国内外でビジネスを伸ばしている。DC事業には、設計や構築、運用といった一連の知見や技術は当然として、効率よく収益を生み出すための営業や販売のノウハウが欠かせない。同社は、クラウド化やグローバル化、BCP(事業継続計画)ニーズの波に乗るかたちで、DC活用型ビジネスを軸に国内外での投資を加速。「IT基盤のサービスを得意とする当社の強みを生かす」(桑野社長)ことで、国際競争力を一段と高める。
TISの足下の国内DC事業をみると、大阪・心斎橋DC(ラック換算で約800ラック相当)を計画通りほぼ5年で完売し、今年5月には約400ラックの新・心斎橋DCを開業した。2011年に都内で竣工した3000ラック規模の御殿山DCもおよそ5年での完売を目指しており「3年目の折り返しが始まっている現段階では、ほぼ順調に受注が進んでいる」(西川邦夫・データセンター統括部エキスパート)と手応えを感じている。また、中国・天津で2010年に開業した約1200ラック規模のDCも「当初の計画通り、2015年まではサーバーを収容し続けられるようにしたい」(TIS北京代表処の宮下昌平首席代表)と、大型案件の受注次第では計画より前倒しで満杯になることを心配するうれしい状況だ。
DCのラックを埋めるのは、本業のシステム構築(SI)に伴うものばかりではない。ホスティングやハウジング、BCP・バックアップ用途、OEM(相手先ブランド)方式での供給、近年では「T.E.O.S.」「飛翔雲」といったTISオリジナルのクラウドサービスもある。Amazon Web Services(AWS)など他社サービスを織り交ぜ、さらにTIS独自のDC活用型サービスの総合ブランド「Cloud×Vision」を打ち立ててサービスメニューを体系化し、「多様な売り方や商材をバランスよく組み合わせて投資を効率よく回収する」(川口利恵子・IT基盤サービス事業推進部副部長)ことで、利益に結びつけているのだ。
TISは、今年8月1日からASEANでの本格的なDC事業第一弾となる「Cloud Berkembang(クラウド・ブルクンバン)」をスタートさせる。ファーストユーザーは金融業向けSaaS型サービスを提供する地場のユーザー企業で、「BerkembangがインドネシアではDC規格の最高水準に相当するTier3準拠である点が評価された」(辻本誠常務執行役員IT基盤サービス本部長)と胸を張る。シンガポールを除くASEANでは、DCの運用技術だけでなく、営業や販売のノウハウがまだ十分でないケースが多く、「当社の強みを存分に生かせる」(TISシンガポール法人の山本学社長)と話す。事実、今年4月に日立システムズとの合弁会社を設立したマレーシアのSIerサンウェイテクノロジーが、日立システムズをパートナーに選んだ最大の理由の一つが、DCの運営や販売のノウハウに長けているというものだった。
過去の日系SIerの海外進出の経験から、SI部門が単独で海外へ乗り込んでも大きな案件の受注は難しい。TISは長年培ってきたDCの運営や販売のノウハウを生かしながら、「SAPなどグローバルERPをはじめとするSIビジネスを展開する」(岡本安史常務執行役員ITソリューションサービス本部長)という手法を採る。国内外のDC活用型サービスを「Cloud×Vision」のブランドの下に統合したように、SIも「Cloud×Vision」と車の両輪になり、「国内外シームレスに展開していく」(松尾秀彦執行役員産業事業本部長)ことで、まずはTISグループの海外売上高比率5%の早期達成を射程内に入れる。(安藤章司)

左からTISの松尾秀彦執行役員、岡本安史常務、桑野徹社長、山本学シンガポール法人社長、辻本誠常務