中国で日系主要SIerの事業構造の転換が急ピッチで進んでいる。中国の人件費が高騰するなか、NTTデータは、人件費が比較的安く、優秀な人材を確保しやすい内陸部へソフトウェア開発拠点の中心を移すとともに、沿岸の大都市部では上流工程へのシフトや自動化に力を入れる。ITホールディングスグループのTISも沿岸部と内陸部の開発人員の数が逆転するなど、中国でのフォーメーションの組み替えを進める。日中間の政治的な緊張関係が続き、中国地場のユーザーからの受注が思うように進まない厳しい状況が続いており、主要SIerは変化適応を迅速に進めることでビジネスを伸ばそうとしている。

NTTデータ中国
神田文男 総裁 中国は、日本のオフショアソフト開発の約8割を受注しているだけでなく、日系SIerが最も多く進出しているアジア最大の市場でもある。
ここ1年来、中国の事業環境が激変する過程で、主要SIerは変化適応の迅速な動きをみせている。NTTデータは中国沿岸部の主要拠点を北京、上海、無錫、内陸部の主要拠点を長春、西安、重慶と位置づけ、主に内陸部の開発人員の増員を推進。直近では長春約200人、西安約100人、重慶約150人の計およそ450人体制にまで増員した。NTTデータ中国の神田文男総裁は「内陸主要3拠点で今年から来年にかけて、需要増を見込んで人員を最大1.5倍に増やす」として、開発工程の内陸部シフトを急ピッチで進める。
TISも対日オフショア開発人員を、これまでの北京中心だった体制から内陸部の西安を軸に拡充しており、「対日オフショア開発人員は、昨年10月の時点で西安のほうが多くなった」(TIS北京代表処の宮下昌平首席代表)と、北京と西安が開発人員数で逆転した。今後も開発工程は西安重視で進めていく方針だ。NTTデータ、TISとも、北京や上海など沿岸部の大都市では、地場での受注に軸足を置いた営業や、システム開発のコンサルティング、設計工程の機能を大幅に強化することで、人件費に見合った付加価値を生み出すことに全力を挙げている。

TIS北京代表処
宮下昌平首席代表 中国の人件費は、「高くなることはあっても、安くなることは決してない」といわれ、沿岸部では、ここ数年、年10%程度の上昇が続いている状態。さらに日中関係の政治的な緊張が続いているために、日系企業全体への風当たりも強いという現実もあって、中国に進出している日系SIerは、事業構造の早急な転換が求められている。
NTTデータは打開策として、(1)中国に進出している日欧米企業への営業強化、(2)開発工程の内陸部への移行と沿岸部におけるソフト開発の上流工程へのシフト、(3)ソフト開発の自動化への着手の三本柱で臨む。
日欧米企業への営業強化では、2008年にドイツの大手自動車メーカー、BMWの情報システム子会社をグループに迎え入れた経緯もあって、「欧州系の自動車メーカーからの受注が極めて好調に推移している」(神田総裁)と、NTTデータのグローバルネットワークを生かしたビジネスを伸ばすことに成功した。神田総裁は「中国での欧米外資ユーザー向けの売り上げは3倍近く伸びる勢い」と、強い手応えを感じている。
同時に、沿岸部では設計段階から開発に参画することで仕事量そのものや付加価値を高める施策を打つ。受注したシステム全体の価値ベースでの構成比をみるとソフト開発の開発工程は全体の約15%を占めるに過ぎないが、NTTデータでは仮に設計段階から結合テストまですべて請け負うと約85%の価値まで高まると分析。設計や総合的な品質テストの技量を生かせば、「人件費が高い沿岸部であっても十分な競争力を保つことができる」と、神田総裁はみる。さらに、北京で勤務する約1000人の技術者のうち約300人は、現在、NTTデータグループが全社を挙げて研究開発に取り組んでいるソフト開発の自動化の技術習得に努めることで生産性の大幅向上を目指す。
中国に進出する日系SIerの多くは、対日オフショアか日系企業、欧米外資への売り上げ依存が多いものの、中国に進出している以上、本命は中国地場ユーザー企業であることは疑う余地がない。中国で約4000人の人員を展開するNTTデータや、日系SIerで最も早く大型データセンターを中国で開設したTISは、早急に中国地場へのシフトを進める目論見だったが、およそ1年で事業環境が激しく変化してしまった。持ち前の変化適応力を発揮しつつ、新たな活路を見出そうとしているのが実際のところだ。(安藤章司)