デル(郡信一郎社長)がチャネル事業を伸ばしている。6年前からITベンダーを通じた間接販売(チャネルビジネス)を開始し、直販モデルからの脱皮が思うように進まない時期があったが、複数の大手ITベンダーとの販売体制を水面下で構築。その成果がようやく出始め、今年度(2014年1月期)はチャネルビジネスが急進した。全売上高のうち、最低でも約30%はチャネルビジネスが占めることになりそうだ。直販スタイルのイメージがいまだに強いデルだが、実は着々とチャネルビジネスを伸ばしているのだ。(木村剛士)
戦略転換が奏功

成田芳久統括本部長。前職は日本HPで、間接販売事業を長く担当してきた デルは、創業者のマイケル・デル氏がCEOに復帰した2006年に、チャネルビジネスをグローバルで本格的に開始。日本でもこの時期にITベンダーとの販売体制構築に動き始めた。とはいえ、直販で急成長したデルにとってチャネルビジネスは不慣れだったこともあって、スタッフのスキルとノウハウ、組織が未熟で、思うように成果を出すことができずにいた。
2012年8月に日本ヒューレット・パッカード(日本HP)から移籍して、チャネル事業のトップを務めている成田芳久・GCC統括本部統括本部長は、「直販から抜け出せていない環境で、最初は言葉も通じず、販売パートナーとの関係は希薄だった」と入社当時を振り返って吐露している。
こうした状況を打開するために、成田統括本部長はそれまでデルが進めていたチャネルビジネスの方針を転換。数多くのITベンダーとパートナーシップを結ぶ戦略を引っ込めて、デルとの協業に関心が高く、販売力もあるITベンダーを選りすぐって少数のパートナーと強固な協業体制を築く戦略に切り替えた。「数よりも質」を選んだわけだ。今年に入って組織も見直して仕切り直した(図1)。その結果、16社のディストリビュータやSIerとの協業体制の構築にこぎ着けた(12月6日時点、図2)。この間接販売網がチャネルビジネスを大きく成長させたという。
16社のなかでも、成田統括本部長は「ダイワボウ情報システム(DIS)、ソフトバンクBBの2社とがっちり手を組むことができたのは大きかった」と打ち明ける。成田統括本部長は、DISとソフトバンクBBの幹部と日本HP時代から親交が深く、この人脈が大きく寄与した。今年度の全売上高に占めるチャネルビジネスの比率は、最低ラインで30%を見込んでおり、「なるべく早い時期に50%に到達したい」と意気込む。
中国・成都で11月に開かれたパートナー向けイベント。アジアパシフィック地域のパートナーが集結し、日本からもソフトバンクBBなど6社の幹部が参加した。米デルのチャネルビジネスのトップ、グレゴリー・デイビス氏(写真下)も参加してスピーチし、パートナーへの継続支援を約束した
地方攻略とソフト販売強化
チャネルビジネスの目標達成に向けて、来年度に進める主な施策は二つある。各地方のビッグITプレーヤーとの協業と、既存パートナーが再販するデル製品の種類を増やすことだ。
チャネルビジネスの売上高を地域別でみると、東京・大阪・名古屋が中心で、地方は伸びしろが大きいとみている。地方は、東京に本社を置く大手SIerの支社・支店の力が強いが、それと同じくらい、地方に本社を置くSIerの存在も大きい。とくに、自治体や病院などの公共機関向けビジネスでは、こうしたローカルSIerが強く、デルは地方市場の開拓をローカルSIerと組んで推進しようと考えている。複数の地域を一気に攻めるのではなく、特定のエリアを短期間で集中的に攻めて成功モデルをつくり、それを他の地域に横展開する。すでに九州でテスト的に動いている。
もう一つは、既存パートナーが売るデル製品のジャンルを増やすこと。パートナーが販売するデルの製品は、パソコンとサーバー、ストレージがメイン。デルはここ数年で企業買収を重ねてネットワーク機器や複数のソフトウェアを自社に取り込み、取り扱う製品ジャンルは一気に増えた。とくに、ソフトは「デル・ソフトウェア」というソフト専門子会社を2012年9月に設立して、強化事業に据えている。「ソフトの再販ボリュームを増やすことは、来年度の大きなチャレンジ」(成田統括本部長)。2014年1月にはデル・ソフトウェアとデルが推進しているパートナープログラムを統合する計画で、ソフトのパートナーがハードを扱うように、ハードのパートナーがソフトを販売しやすいようにする。
アジアで初のパートナーイベント
2013年11月6~7日、米デルは日本を含むアジアパシフィック(APJ)のパートナーを集めたイベントを、デスクトップPCの主力工場がある中国・成都で開いた。デルがAPJのパートナーを集めたイベントを開くのは、今回が初めて。およそ10か国から450人ほどのパートナー関係者が集まり、米デルのグレゴリー・デイビス・バイスプレジデントは、この場でパートナーに対する支援強化を約束し、パートナーの士気を高めた。
デルのチャネルビジネスは、IBMやHP、オラクル、マイクロソフトといった外資系ITベンダーに比べて規模も小さく、体制も手薄。だが、この5年間ほどで一定の成果を出したのも事実。結果が出ずに「チャネルビジネスから手を引くのではないか」と噂されていた状況は、今は昔の話だ。
表層深層
デルがチャネル事業を伸ばす環境には、追い風が吹いている。競合の外資系企業がチャネル体制を見直す動きがあり、一部のITベンダーから不満の声があがっているからだ。日本IBMは一次店の体制を見直し、3社のディストリビュータに製品供給を絞り、この3社から二次店に商品を卸す体制に変更した。「チャネルビジネスに最後発の私たちは、競合を気にしている余裕はない。地道にパートナーとのパイプを太くするだけ」と成田統括本部長は語っているものの、「(ITベンダーに)デルとつき合ってもらえる環境ができた」と歓迎するデルの担当者がいるのは実際のところだ。デルは、他社の戦略転換を好機とみて一気呵成に攻めようとしている。(木村剛士)