「クラウド」「モバイル」「ソーシャル」とともに、IT業界の主役になった「ビッグデータ」。大量データからビジネスを伸ばすヒントを見つけたいと考えるユーザー企業が増えて、需要が旺盛な状況にあるが、ITベンダーにとっては、激烈な競合にさらされることになる。ユーザーが理解しやすく、他社にはないテクノロジーが差異化要素としてあるかどうかが勝負を分ける。日立製作所は、東京大学との共同プロジェクトで開発した技術を武器にしながら、他のITベンダーと協業することで競争力を高めている。群雄割拠のビッグデータ市場で、差異化にこだわる日立の取り組みを紹介する。(取材・文/木村剛士)
共同開発プロジェクトで超高速処理
日立製作所は、ビッグデータの分析に必要なハードウェアやソフトウェア、サービスをひと通り揃えている総合ITベンダーだけに、ラインアップする製品・サービスは幅広い。そのなかで、特徴的なビッグデータ製品の一つに、大量データの高速処理に適したアプライアンス「Hitachi Advanced Data Binder プラットフォーム(HADB)」がある。
2012年5月末に発売した「HADB」は、大量データを高速処理する専用機器だ。ソーシャルメディアやセンサ機器などで得た非構造系のデータと、基幹システムに蓄積した売り上げや経費といった財務情報を組み合わせて、分析することができる。特筆すべきは、「HADB」に組み込まれている高速データベース(DB)のエンジンだ。大量データを集約・計算して、ユーザーが求める分析レポートを作成するためには、処理性能が高いハードウェアに、帯域幅が広いネットワーク、高速計算を支援するミドルウェアなど、さまざまな部品が揃っていることが条件になる。なかでも重要なのは、やはりDBだ。
日立は、東京大学と共同で取り組んでいる超高速DBエンジンの研究開発プロジェクト(※)を推進し、従来のDBに比べて約100倍の高速処理が可能なエンジンをつくった。「HADB」は、この新エンジンを搭載した高速処理を武器にして、他のビッグデータソリューションと差異化を図った。
BIツールとの連携に力を注ぐ

石川太一
主任技師 日立が「HADB」を拡販するために重視している戦略は「協業」だ。「HADB」と連携することによって、価値が出る製品をもつITベンダーとのアライアンスを推進している。とくにビッグデータの分析には欠かせないBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールとの連携に力を注いでいる。中堅SIerのDTSが提供する「DaTaStudio@WEB」やウイングアークの「MotionBoard」、SAPジャパンの「SAP BusinessObjects」と、すでに連携している。
情報・通信システム社ITプラットフォーム事業本部の石川太一・ビッグデータソリューション部主任技師は、「BIツールは複数存在するが、それぞれに特徴がある。さまざまな顧客の要望に対応するために、『HADB』とマッチするソリューションがあれば、今後も協業していきたい」と話し、連携するBIツールを増やしていこうとしている。
「HADB」を幅広く拡販するため、2013年10月末にはラインアップを強化。「デスクサイドモデル」と「エントリーモデル」「スタンダードモデル」という三つのラインアップを用意し、2013年12月末に出荷を開始した。なかでもデスクサイドモデルは、省スペース設計で容量3.3テラバイト(TB)。価格は1050万円で、同等機能を備える製品に比べてリーズナブルな価格設定にした戦略商品だ。
日立は「HADB」や連携するBIツールの提供だけでなく、ビッグデータシステムの構築やデータの有効活用方法がわからないユーザーには、グループ会社の日立コンサルティングと協業したコンサルティングサービスも提供。「ビッグデータに関連するあらゆる要望にワンストップで応えられる体制が日立にはある」と石川主任技師は自信を示している。
総合ITベンダーだからこその総合力に、東大との共同開発プロジェクトで得た新技術を組み合わせアプライアンスというわかりやすいかたちで提供する「HADB」。日立のビッグデータソリューションの一製品に過ぎないが、ターゲットが広いだけに、ヒット商品になる可能性がある。
(※)内閣府の最先端研究開発支援プログラム「超巨大データベース時代に向けた最高速データベースエンジンの開発と、当該エンジンを核とする戦略的社会サービスの実証・評価」(中心研究者・喜連川優東大教授/国立情報学研究所所長)