ベリテは、宝飾品の小売店チェーンを展開している。2010年に社長に就任した平野和良氏は、経営情報を分析して、業績の向上に直結する指標を導き出すことを目指していた。しかし、基幹システムから抽出される定型データは、分析することが難しい状態だった。そのうえ、現場から提出される業績レポートも、フォーマットが統一されておらず、状況を把握しにくい。悩んだ挙句に平野社長が導き出した結論は、BIツールの導入だった。
【今回の事例内容】
<導入企業> ベリテ1936年創業。宝飾品専門の小売店チェーンを手がけている。従業員数は、418人(2013年9月30日現在)
<決断した人> 平野 和良社長社長に就任した2010年当初から従来のデータ活用に問題意識を抱え、トップダウンで改革を推し進めた
<課題>経営戦略を練るためのデータをうまく活用できていなかった。現行のデータは、フォーマットも各部署ごとにバラバラでわかりづらかった
<対策>ウイングアーク1stが提供する「Dr.Sum EA」をDWHとして採用し、データを集中管理。さらに、ダッシュボード「MotionBoard」によって、リアルタイムに可視化した
<効果>業績向上につながる独自のKPIを策定して、経営戦略を立てることができるようになった
<今回の事例から学ぶポイント>経営者自らがIT戦略の指揮を執ることで、経営判断を早期化できる。データを全社で共有することで、共通意識のもと業務を遂行できる
データが役に立たない!
全国約80店舗で、宝飾品の小売店チェーンを展開しているベリテ。2010年4月に社長に就任した平野氏は、経営戦略を練るうえで問題を抱えていた。基幹システムから得られる経営に関するデータが分析しづらかったのだ。平野社長は、売上高や顧客数、単価、年齢、店舗など、システムから得られるさまざまな情報を分析して、業績の変化に直結する指標(KPI)を導き出し、その指標に基づいた経営戦略を打ち出そうとしていた。「どの製品が売れたかとか、どのくらいの売り上げがあるといった最終結果を見ても意味がない。なぜ売れているのかを分析して、販売の効率を高めたかった」と当時の状況を語る。しかし、基幹系システムから手に入れられる情報は膨大で、どれを見たらいいのかわからない。そのうえ、「得られる情報は平面的な定量データで、それぞれの情報の関連性を芋づる式に紐付けていくことができなかった」(平野社長)。さらに、各現場から提出される定期的な業績レポートは、担当者が基幹系システムから「Microsoft Access」を使ってデータを抜き出し、各自がExcelで加工したものだったので、フォーマットや内容がバラバラだった。これでは、現状を把握することにも時間がかかり、意思決定のスピードが鈍ってしまう。
そこで、平野社長は、BI(ビジネス・インテリジェンス)ツールが付属している基幹系システムに刷新することで、データ活用することを検討した。しかし、「ERPに付属しているようなBIツールは、機能が乏しいうえに、基幹系システムの刷新には莫大なコストがかかる」という理由で、採用には至らなかった。平野社長は頭を抱えてしまった。
基幹系システムは刷新せずに、把握したい情報を手に入れる方法はないものか──。平野社長は考え抜いた。そして、大量の業務データを抽出・蓄積し、一元管理・分析環境を提供するデータウェアハウス(DWH)の採用という結論にたどり着いた。13年春に、ウイングアーク1stの「Dr.Sum EA」を導入。さらに、ダッシュボードとして「MotionBoard」を採用して、情報をリアルタイムに可視化できる体制を敷いた。基幹系システムを刷新するのに比べて、コストを10分の1以下に抑えることができた。
KPIをモニタリングして販促に生かす
ただ、これでハッピーエンドというわけではない。BIツールは、うまく活用してこそ効果を発揮するからだ。いろいろな情報をリアルタイムでモニタリングすればそれでいいというわけではない。平野社長は、「たくさんの情報を把握するつもりはなかった。業績の向上に直結するKPIを見つけて、この数字の推移をモニタリングしようとしていた。まずは、KPIを探し出すことに時間をかけた」という。
平野社長は、経営企画室や情報システム部の責任者とプロジェクトチームを組んで、2013年の春から秋にかけて、各部署ごとのKPIを策定。例えば、ある部署では、「複販率」をKPIとして取り入れた。来店客一人あたりの平均買上点数のことだが、「客単価の分析を進めるうちに、1点を購入して50万円を支払う顧客よりも、2点を購入して50万円を支払う顧客のほうが、再来店率が高いという結果が出た」と、平野社長はデータ分析の効果を実感することになった。実際、10月から複販率を高めるための施策を講じたところ、客単価と再来店率が高まった。平野社長は、「私自身がデータを分析し、“複販率”が業績を高めるキーポイントだと仮定して、KPIに据える決断をしたことが業績の向上につながった」と自信をみせる。
さらに、「MotionBoard」を活用して、策定したKPIを全社員が共有する体制を敷いた。全社員が共通の目標に向かって業務を推進することで、意識のずれをなくし、業績の向上に拍車をかけようとしている。KPIの推移をモニタリングすることによって現場からのフィードバックが簡単にできるようになり、平野社長の意思決定がスピードアップした。
平野社長は、「ITの活用で重要な決断は、ツールを採用するかどうかではない。導入するだけでは意味がないし、うまく活用しなければ効果は得られないからだ。ITを使って、“何をするのか”を決断することが重要だ」と自らの体験を語った。(真鍋武)

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