洋服や雑貨のセレクトショップを運営するユナイテッドアローズ(竹田光広社長)は、在庫確認やレジ対応などの業務に必要な時間を短縮するために、近距離の無線通信で商品の識別・管理ができるシステムを導入した。このシステムを提供したのは、小売業向けITを手がける日本NCR(諸星俊男社長兼CEO)だ。ユナイテッドアローズは、今年6月、「green label relaxing」のブランドで展開する60店舗でシステムの稼働を開始し、接客の質を向上することに生かしている。
【今回の事例内容】
<導入企業> ユナイテッドアローズ「UNITED ARROWS」など、複数のブランドで洋服や雑貨を取り扱うセレクトショップを運営する。設立は1989年。従業員は3391人(2014年3月末時点)。東京・渋谷の神宮前に本社を構える
<決断した人> 事業支援本部情報システム部統括リーダー
小森谷 郷 氏
RFIDの利便性に着目し、システムの導入を率いた
<課題>バックヤード系業務の負荷が重く、接客にかける時間が削られがちだった。この問題を解決し、本業に集中できるようにするソリューションを探した
<対策>モバイルと連携した業務支援システムを採用し、在庫をiPhoneで確認できるようにするなど、業務改善につなげた
<効果>負荷が軽減し、スタッフが接客業務に励むようになって、「ファストファッション」との差異を明確にすることができた
<今回の事例から学ぶポイント>現場での課題解決は経営改善に直結する
iPhoneで在庫を確認
「セールがスタートしました。今回は人気の二つのアイテムをご紹介します」──。スタッフがブログで写真を交えてシャツやカーディガンの着こなしのコツを説明して、ファッションのコーディネートについても提案する。こうして、時間をかけてていねいな対応ができるのは、IT活用によってバックヤード業務の効率化を進めて、スタッフが「お客様に接する」という本業に集中できるようにしたからこそだ。
ユナイテッドアローズが展開するブランド「green label relaxing」。全国に60店舗の専門店を構えて、「自分らしい」スタイルを追求する顧客層を中心に、販売を順調に伸ばしている。同社は、2012年、小売業に強い日本NCRから、iPhoneを活用して在庫確認などができるシステムを導入し、2店舗で試験的に使ってきた。在庫確認に必要な時間を大幅に短縮し、スタッフが接客業務に励むようになったという効果をみて、この6月には、システムを全店舗に導入して稼働を開始した。
日本NCRが納入したシステムは、商品タグに小型チップを組み込み、近距離の無線通信によって商品の識別・管理ができる「RFID」技術を活用したもの。バーコードの代わりにタグに商品情報を記録することで、バーコードを一点ずつ読み取る手間を不要にした。これによって一括スキャンが可能になり、在庫確認のほか、検品や棚卸しといった業務の時間短縮につなげた。店舗の販売現場では、「大きな負担だったバックヤード系の仕事が楽になって、本当に助かった」と、ホッとした声が聞こえる。
ていねいな顧客対応で差異化
ユナイテッドアローズでITを担当するのは、事業支援本部の情報システム部だ。現場を回ってどんな課題があるかを把握し、ITベンダーにソリューションの提案を求める。統括リーダーの小森谷郷氏は、米国の小売業界で普及が進んでいるRFIDに着目して、活用シーンなどについて徹底的に調査を行った結果、「ぜひ当社でも活用したい」という意志を固めた。日本NCRを含めて、4社に提案を依頼し、検討を進めた。
ユナイテッドアローズは、アパレル市場を取り巻く環境の激変に直面している。「H&M」ブランドで価格を抑えたデザイン性の高い洋服を販売するヘネス・アンド・マウリッツなど、「ファストファッション」の企業が市場開拓に精力的に取り組んでいるなかで、おもてなし精神の顧客対応で差異化を図っているのだ。そのためには、ITの活用によって、顧客対応以外の業務を減らして、販売スタッフの負荷をいかに軽減するかが、成功のカギを握る。
「ベンダーを選ぶ際、当社の業務をどれほど理解しているかを重視して、最終的に日本NCRに発注を決めた」と、小森谷・統括リーダーは振り返る。日本NCR側でこの案件をリードした流通システム営業本部専門店営業部の柴田康之担当部長は、1級販売士の資格を取得したり、店舗でシステムのデモンストレーションを行ったりするなど、現場に根づいた営業活動に取り組んでいる。今回、こうした活動が実を結んで、受注に至ったのだ。
レジ待ち解消でセールを乗り切る
「green label relaxing」は、ユナイテッドアローズのなかで最も店舗数が多いブランドということもあって、「スタッフは、IT活用に積極的な姿勢をみせている。一日も早く新しいシステムを使いこなすことができるよう、懸命に使っている」(小森谷・統括リーダー)というように、現場での積極活用が功を奏している。「一括スキャンによって、レジ待ちの時間も短縮でき、店が混み合って、レジ対応が大変なセールの時期も無事に乗り切ることができた」(同)と、導入の効果が思いのほか大きかったことに、うれしさを隠せない様子だ。(ゼンフ ミシャ)