柴田康之さんは、外資系IT企業の営業マンとしては珍しく、新卒入社から24年間、ずっと同じ会社で、同じ業界のお客様への営業を担当している。無線通信を活用した小売業向けソリューションに強い日本NCRで、ユナイテッドアローズやビームスなど、洋服のセレクトショップを運営する企業にソリューションを提案する営業部隊のトップを務める。部下と仕事を手分けし、自ら積極的に営業現場に出て築いてきた客先との信頼関係を生かして、案件を受注。現場での顧客対応や米国本社とのやり取り、夜の飲み会での人脈づくり──。柴田さんに、多彩な一日を語ってもらった。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
柴田 康之(しばた やすゆき)
1990年、大学を卒業し、日本NCRに入社。営業マネージャーや百貨店向け営業部の部長を務めた後、セールスサポートを担当。2011年、現職に就任するとともに営業の現場に復帰し、ユナイテッドアローズなど、洋服のセレクトショップを運営する企業にITソリューションを提案する部隊を率いる。趣味はバンド活動。
小売りの現場を知ってこその活性化策
「オシャレだね」とよく言われるが、セレクトショップの運営会社がお客様なので、彼らが売る商品のテイストを取り入れて、身だしなみには気を遣っている。私は、お客様に合ったITソリューションを提供し、それを有効に活用していただくことで、アパレル業界の発展に貢献したいと強く思っている。きっかけは、入社して3年目、アパレル会社のあるお客様に、営業マンとして鍛えていただいたこと。その恩返しをしたい一心で活動し、お客様に信頼されるようになり、プレイングマネージャーとして、多くの案件を受注できるまでになった。
午前
お客様に密着して現場で一緒に汗をかく
私は週2~3回、お客様の下に通い、業務課題をきめ細かく把握してシステム提案に反映するように心がけている。先日、お客様のIT担当者から、システムの長期にわたるグランドデザインについて相談を受けた。これに応えて、まず、お客様の課題を把握するためにヒアリングシートを作成し、お客様のほぼ全部門に回答してもらった。今日は、先方の担当者と一緒に、その回答を分析する。
アパレル業界は時給が低いことなどで、販売スタッフの確保が難しくなっている。スタッフは、実地棚卸など販売以外の仕事が多いので本業に集中できず、やる気がなくなって辞めてしまうケースが少なくない。こうした現状を踏まえて私が提案したのは、無線自動認証(RFID)の技術を活用して、値札の一括読み取りをするシステムだ。実際に専用端末を現場に持っていって、バーコードを一点ずつ読み取っていたこれまでの作業から、時間や手間が大幅に減ることをデモンストレーションで訴えた。
午後
具体的な数字で米国本社に日本市場の可能性を示す
すべての案件が、すぐに利益につながるわけではない。案件によっては、当面は赤字だが、長い目でみれば大型受注につながって、結果としてプラスになることがある。当社は米国企業の日本法人なので、当然ながら、本社は利益の追求を厳しく求めてくる。そこで私は部下とともに市場を分析し、ターゲットや受注確率などの具体的な情報を盛り込んだ資料をつくって、米国本社を説得する武器にしている。
夜
業界の飲み会に参加してつながりを築く
お客様と深い信頼関係を築いてきたおかげで、夜はユナイテッドアローズやビームスなどのIT担当者が集まる飲み会に参加して、システムをどんなふうに活用すれば業界が盛り上がるのか、意見を交換する。そこで知り合った方を翌日訪問してシステムを見せてもらうなど、業界の方々との交流を仕事の動きに生かしている。これからも、現場を意識した提案で、アパレル業界を元気にしていきたい。
私の営業方針を表す漢字は……「援」
営業マネージャーとしては、お客様と自社(部下や経理部門)の間に入って、提案によって両者にメリットがあるよう、支援することが重要だと考えている。「援」という字には、「たすける」という意味もある。今年、私は店舗運営や販売管理に関する知識を認定する「1級販売士」の資格を取得した。アパレル業のお客様は現場でどんなニーズを抱えているかを的確に把握し、ITを活用することで販売スタッフの負担を減らす手助けをしたい。