明治35年創業の保険会社、第一生命保険が情報システムを再構成している。2013年度から推進中の中期経営計画に沿ったかたちで、IT環境の刷新にチャレンジしている。大きなミッションは「Windows Server 2012 (R2)」への移行。500台にも及ぶ「Windows Server 2003/2008」サーバーを最新OSに移行して、サーバー台数を160台、およそ三分の一に集約するというビッグプロジェクトだ。第一生命保険は、このシステム刷新でITコストを20%削減することを狙っている。
【今回の事例内容】

サーバーOSのサポート終了への備えは万全
<導入企業>第一生命保険1902年創業。従業員数は約5万5000人。個人および法人に対し、各種の保険商品や投資信託などの金融商品を販売する。2013年4月~14年3月の保険料等収入は2兆8680億円で、最終利益は779億3100万円
<課題>2015年7月にサポートが終了する「Windows Server 2003」と「同 2008」を利用。業容拡大に合わせて情報システムを増強してきた。サポート終了への対応と、システムの肥大化に悩んでいた
<対策>「Windows Server 2012」へ移行し、仮想化技術を利用してシステムを統合する
<効果>物理サーバーを従来の500台から160台に集約し、運用コストを20%削減する
<今回の事例から学ぶポイント>サーバー移行のプロジェクトは、ユーザーもITベンダーもスケジュールが重要
仮想化技術で集約化
第一生命保険が運用するWindows系システムの基本構成は、500台の物理サーバーと大型の統合ストレージを、FC-SANでつなぐかたちだ。サーバーOSには、「Windows Server 2003」と「同 2008」を採用している。中期経営計画「Action D」が2013年度にスタートしたことに伴い、情報システム部門には次世代のIT環境づくりが求められることになった。また、「Windows Server 2003」は、マイクロソフトのサポートが2015年7月14日(米国時間)に終了する。中計の有無を問わず、最新のWindows環境に移行するプロジェクトを走らせる必要があった。
システム刷新でポイントにしたのが、「(1)コスト削減(2)拡張性の確保(3)標準化の推進(4)運用の高度化だった」(太田俊規・ビジネスプロセス企画部部長兼コストイノベーションタスクフォース部長)。500台の物理サーバーと、一つの大型ストレージをつなぐやり方では、万が一、トラブルが生じた場合の被害が大きいことと、利用する機器が高額であることからコストが問題になった。
そこで、新システムではラック単位で共有ストレージをつなぐ方法に変更することを決断した。一つの大きなシステムをつくりあげて運用するのではなく、小規模なシステムを複数つくって運用する方法を選んだわけだ。こうすることで「各ラックで利用するIT機器の価格を抑えながら、システムにトラブルが起きた際も、影響の範囲を一つのラック内システムに抑えることができる」(太田氏)。
各サーバーには、当然ながら、サーバーOSの「Windows Server 2012」を採用した。Windows Server 2003からの移行では、システムの内容によってパブリッククラウドも選択肢になるが、第一生命保険は、オンプレミス型システムを選んだ。各サーバーは、「Hyper-V」を活用して仮想化。物理サーバーOSの上には複数の仮想OSを立ち上げてアプリケーションを実装し、集約率を高める。これによって、500台あったサーバーを160台に集約、サーバーラック数は従来の100個から20個に減らすことを狙う。コスト削減効果は、約20%だという。
足かけ3年のプロジェクト
失敗が許されないビッグプロジェクト。第一生命保険は、周到に計画を練ってプロジェクトを推進している。
移行する内容を「基盤システム」(Active Directoryサーバーやファイルシステムなど)、「全社アプリケーション」(Notesやオンラインウェブ会議システムなど)、「個別アプリケーション」(個別の業務支援システム)の三つに分けて、それぞれ「設計・開発」と「移行」の期間を設けた。設計・開発期間は各フェーズによって多少の前後はあるが約3か月、移行期間は約1年を「万全を期すために」(太田氏)設けている。移行推進役として、「アプリ移行事務局」を設置。全体の計画は今年度第1四半期から始まり、終了予定は2016年度第1四半期。足かけ3年のプロジェクトになる。
太田氏は、「最新のWindows環境は、セキュリティの強度を高めることと、サーバーの集約率を高める先端技術を備えている。『最新テクノロジーを活用してコスト効率を高め、戦略的なIT投資を実現する』という当社の方針に合致している」と話しており、新システムに対する期待は大きい。
日本マイクロソフトによれば、日本国内で残っている「Windows Server 2003」は、今年7月の段階で約30万台だという。第一生命保険ほどの大規模な移行はそうはないと思われるが、こうしたプロジェクトが今、多くのユーザー企業のなかで走っている。(木村剛士)