製造業向けの生産管理システムは、世の中に数多くある。しかし、製品が液体となると、固体とは異なる生産管理が必要で、対応するパッケージシステムを探すのは容易ではない。ましてや、海外で導入するには、現地の会計基準もクリアしなければならない。タイで金属表面処理薬品やめっき(鍍金)薬品を製造するディップソール タイランドは、生産管理システムを導入するにあたって、カスタマイズを前提にパッケージシステムを選んだ。
【今回の事例内容】
<導入企業>ディップソール タイランドディップソール タイランドは、金属表面処理薬品やめっき薬品などの製造・販売を手がけるディップソールのタイ現地法人。2005年2月設立。14年9月末時点で日本人スタッフが3人、現地スタッフが23人
<決断した人>白鳥保
代表取締役社長
好景気に沸くタイでは、今が事業拡大の好機。白鳥社長は、手作業に頼っていた在庫管理などは事業拡大の前にシステム化しておくべきだと判断した
<課題>原料や資材、完成品の在庫などをExcelで管理していて、在庫状況の把握に時間がかかっていた。各種の帳票もExcelファイルを参照して手作業で作成していた。そのため、時間がかかるばかりか、作業が属人的になりやすく、ミスも多かった
<対策>生産管理システムの導入を検討。液体製品の管理は、形のある製品の管理と違う部分が多く、現地でカスタマイズの相談ができるITベンダーに依頼した
<効果>3人で3日かかっていた在庫管理や帳票作成などの処理が、リアルタイムでできるようになった
<今回の事例から学ぶポイント>ITベンダーに現地で対応できる体制があると、カスタマイズ対応がスムーズになる
コピー&ペーストで帳票作成
ディップソール タイランドは、金属表面処理薬品やめっき薬品の製造・販売を手がけるディップソールのタイ現地法人である。設立は2005年2月。ディップソールでは初となる東南アジアの製造販売拠点であり、自動車部品メーカーなどを中心に前処理薬品、亜鉛めっき薬品、3価クロム化成処理薬品、鉛フリー無電解ニッケルなどの表面処理薬品を販売している。
製造業では、材料や部品の調達と在庫管理、完成品の在庫管理と出荷管理といった生産管理が必須であり、専用のシステムを導入するケースが多い。ところが、ディップソール タイランドは、これらの生産管理をExcelで管理していたという経緯がある。現地法人の設立当初は問題なかったが、事業の拡大につれてExcelファイルの数が増え、そのデータを扱うことができるスタッフが限られるような状況になっていた。手作業で集計するので、データの解析にも時間がかかっていた。
「製造計画に対して、材料の発注や在庫がどうなっているのか、すぐに把握できない状況だった」と、ディップソール タイランドの白鳥保代表取締役社長は当時を振り返る。帳票を作成するときは、該当のExcelファイルからデータをコピー&ペーストすることで対応していたという。また、月末の帳票作成などの作業では、3人の担当者が3日間かかりっきりでExcelファイルと格闘しなければならない状況だった。

ディップソール タイランドのオフィス外観事業拡大の試金石として
ここ数年、タイは好景気に沸いている。ディップソール タイランドも業績が好調なことから、事業拡大に向けた次の一手を模索する段階にある。
「現地法人の社長に就任して4年目。今は生産品目を増やしている。これまでなんとか少人数で生産管理をしてきたが、事業規模が大きくなると、その人数を増やさなければならない。ただ、それでは非効率な作業が肥大化することになる。そうなる前に、生産管理システムを導入したかった。会社の業績もよく、この時期が最適だと考えた」と白鳥社長は語る。
生産管理システムを検討するにあたって、白鳥社長が問い合わせた先は、日本の本社だった。「私自身はITに詳しいわけではないし、どのようなパッケージシステムがあるのかも知らなかった」(白鳥社長)。実績や価格面などを考慮して、本社が紹介したのはシステムエグゼの生産管理システム「EXEX(エグゼクス)生産管理」の加工業版だった。ただし、このパッケージシステムは金属・プラスチック加工業や板金加工業などの固体商品を扱う業態をターゲットにしていて、液体商品には適合していなかった。「機械加工とは異なり、材料よりも完成品の量が減ったり、水を使う場合は増えたりする。また、機械の部品であれば整数で数えられるが、液体商品は0.8個ということもある。そのため、当社に導入するにはカスタマイズが必要だったが、システムエグゼのサポート拠点がタイにあることと、開発拠点が隣国のベトナムということもあって、お任せできると判断した」(白鳥社長)。2013年10月、生産管理システムの導入プロジェクトがスタートした。
エキスパートが不要になった
プロジェクトがスタートしてから、およそ半年で受発注機能が稼働。その後の約半年で、会計システムとの連動も果たしている。「多くの要望を出したが、小回りよく対応してもらった。手作業だった生産管理をシステム化したことで、データが正確になった」と白鳥社長は効果を実感している。現地スタッフも、以前の煩雑な作業とは負荷がまったく違うため、当初は驚いたくらいだという。
3人の担当者が3日間かかりっきりで作成していた月末の帳票は、リアルタイムで出力できるようになった。「従来の作業は、担当者が休むと機能しないほどの専門性を要していたが、システム化によって新入社員でも対応できるようになった」(白鳥社長)。カスタマイズで作成した帳票の数は、10を超えるという。
人手に頼っていた業務、それもエキスパートが必要だった業務のシステム化に成功したディップソール タイランド。白鳥社長の思惑通り、今後は生産管理システムを武器に、事業を積極的に拡大していく考えだ。(畔上文昭)