ネットアップ(中島 シハブ・ドゥグラ社長)は12月10日、SAN専用ストレージの新製品を発表した。NAS市場でのシェアを盤石なものにしている同社だが、SANストレージ市場では首位Dell EMCとの差は依然大きい。SAN専用製品の投入により、高可用性が要求されるミッションクリティカル領域の本格攻略を開始する。(日高 彰)
近藤正孝常務兼CTO
アクティブ-アクティブの冗長構成が可能に
ネットアップは、自社開発の専用ストレージOS「ONTAP」を搭載するNAS(ネットワーク接続型ストレージ)を主力商品としているが、現在のONTAP搭載製品は、NASだけでなくSANストレージの領域も作成できるユニファイド(ファイル/ブロック統合型)ストレージとなっており、同社によれば導入ユーザーの約半数がSANストレージの機能を活用している。
しかし、コントローラーの障害に備えて冗長構成とする場合、従来製品では「アクティブ-スタンバイ」の構成となっており、アクティブ側のコントローラーが停止した際、スタンバイ側が立ち上がってアプリケーションとの接続が再び有効になるまでに一定の時間が必要だった。このため、データの消失だけでなくアプリケーションの停止も許されないミッションクリティカル用途での採用は難しかった。
この問題を解決するため、ONTAPの最新バージョン「9.7」では、NASとしての機能を削除してSAN専用とする代わり、同時に2つのコントローラーが常時稼働状態となる「アクティブ-アクティブ」の構成を取れるようにした。片側のコントローラーが停止してもフェイルオーバー時間は2秒以下に抑えられており、高い可用性が求められるシステムにも対応できる。
ONTAP搭載製品初のSAN専用ストレージ。
ハードウェアは従来のユニファイド機と共通
ONTAP 9.7を搭載する新製品の「AFF ASA(オールSANアレイ)A220」および「AFF ASA A700」は、それぞれ従来製品のAFF A220/A700とハードウェアは共通だが、SAN専用の構成として出荷される。設定画面等もSAN専用のデザインで、NAS機能が不要なユーザーがより簡単に構築・運用できるシンプルな設計としている。価格は、同じハードウェアを使う従来製品とほぼ同等という。
同社日本法人の近藤正孝常務兼CTOは「ネットアップというと『NASの会社』というイメージがまだまだ強いかもしれないが、すでにNASは製品ポートフォリオの一部に過ぎない」と強調。グローバルではNASの市場規模が約72億ドルと試算されているのに対し、SANにはその2.5倍の約180億ドルの市場があり、同社にとっては大きな成長余地がある。SANのトップベンダー(具体名は挙げなかったが、Dell EMCであることは明らかだ)が世界で約27%のシェアを獲得しているのに対し、ネットアップは約11%といい、ミッションクリティカルにも対応する製品を出すことで、SAN市場における存在感を高めたい考えだ。
ONTAPのクラウド対応がSAN製品でも武器に
また、SAN専用機においても、ONTAPが備える豊富なデータ管理機能を利用できることをセールスポイントにしている。ONTAPベースのストレージ基盤は、オンプレミスとクラウドの両方のデータに同じポリシーを適用して管理できるのが特徴で、国内ではAWS、Azure、GCPそれぞれの東京・大阪リージョンにONTAPストレージを展開可能としている。
この機能をSANストレージに組み合わせれば、アクセス頻度の低いブロックを低コストなオブジェクトストレージへ移動する、クラウドに複製した環境を利用して開発・テストや分析を行う、といった使い方が可能になる。近藤常務兼CTOは「オンプレミスのモダナイズを支援できる製品」と表現し、従来の基幹業務システムで運用してきたSANストレージを、アプリケーションの改修なしでクラウド対応のアーキテクチャに転換できるメリットを強調した。
アンソニー・ライ・シニアバイスプレジデント
米国本社でクラウドデータサービス事業を統括するアンソニー・ライ シニアバイスプレジデントは、同社の現在のビジネスにおいてクラウドを含むデータ管理サービスがますます重要な位置付けになっていると説明。既存ユーザーのクラウド対応に活用されているだけでなく、ネットアップのクラウドデータサービスを求める新たな顧客も急速に増加しており、同社のクラウドサービスでは新規ユーザーが約4割を占めるという。
ライ氏は「ネットアップは4年前、パブリッククラウドを受け入れ、自社のコア技術をAWS上に移植する決断をした。私たち自身にもデジタルトランスフォーメーションが必要だった」と述べ、競合よりも早い段階でクラウドの価値を認め、戦略を転換したことで、同社は最も包括的なデータ管理サービスを提供できるストレージベンダーになれたとアピールした。