新型コロナ対応が続き、いよいよ中小企業補助メニューに、復活や再構築、事業承継というキーワードが前面に出てきている。そのための国や地方自治体の補助金の公募も目白押しだ。特に、IOT/AI/DXは重要な取り組み項目となっている。今や、それらの推進はアナログをデジタルに置き換える電子化による「組織内の業務生産性向上や働き方の変革」と、業務・製造プロセスのモダナイゼーションおよびトランスフォーメーションによる「顧客や社会の問題の発見と解決による新たな価値の創出」のどこから取り組むのかにかかっている。この取り組みこそ、中小企業が生き残るためのITと大きく関係している。
ハードウェアとソフトウェアに込められている価値
多くの企業のハードウェアやソフトウェアには、開発・製造部門の技術や営業・販売部門が捉えた顧客・市場ニーズという「価値」と、経営部門のマネジメントで評価した「成果」が込められている。さらに、成果はサプライチェーンによって「新たな価値」となって、効率的に社会へ供給・分配され、企業の存在意義が広まっていくことになる。
一方で、社会からサプライチェーンに求められている価値は、SDGsなどの「顧客や社会の問題の発見と解決による新たな価値」であり、「組織内の業務生産向上や働き方の変革」により生み出される価値である。この価値を、ハードウェアとソフトウェアにどのように込めるかということが、モノづくりプロセスで大切になってきている。
従来のモノづくりプロセスでは、「守りのIT」が現場からのボトムアップ、「攻めのIT」がトップダウンのように担当すれば実施できると思われてきた。しかし、現在では、組織内の業務生産向上や働き方の変革で生み出される価値は、守りのITにおけるモノづくりDXの対象であり、顧客や社会の問題の発見と解決による新たな価値が攻めのITのモノづくりDXの対象である。「価値」を基準とすることで、自社だけが生む価値ではなくボトムとトップおよびサプライチェーンによって生む価値が協調するデザインが必須となった。
メッセージを探索して協調体制をつくる
例えば、6次産業のモノづくりプロセスの場合、生産者が農産物をつくり、加工会社が食品に加工し、流通にのり、観光業の目玉として販売される。農産物には、その地域の環境的特徴に応じた農法のノウハウに価値が含まれ、食品加工では企業に長年勤めている職人の生産物への目利きや加工状態を見極めるノウハウがある。これらは暗黙的な現場の価値として食品に埋め込まれ、生産地域における観光の目玉となる食品の価値がメッセージとなって全国に情報発信される。他地域への販路を担う流通は、その価値を最大化するために、生産から加工、地域の観光の情報や市場をモニタリングしながら、供給のタイミングを図っている。
6次産業のものづくりプロセスにおける生き残りのためのITの課題
図は、6次産業のものづくりプロセスである。プロダクトおよびハードウェア要素に価値を埋め込む役割として、生産者・食品加工・観光業を分類した。暗黙的な現場知を商品に埋め込んだり、地域固有の価値をプロダクト化したりするためである。ここでは、業務現場とトップの協調体制において、共通言語がつくれずにメッセージが埋め込まれてしまう課題がある。
また、プロセスおよびハードウェア要素に価値を埋め込む役割として、生産者・流通業を分類した。環境や市場などにおいて外部からの影響が多いためである。ここでは、協調体制でつくったメッセージを価値としてどのように最適化するか、また、その価値をサプライチェーンのシステムに成果としてどのように見える化するかが課題となる。
何を優先するかを考える
守りのITにおける課題の解決に取り組む場合、協調体制が基本となり、中長期計画などをもとに何を価値とするかのメッセージが探求され、SDGsなどを戦略ガイドとして、価値のメッセージが埋め込まれた動画やビジュアルツールがつくられる。攻めのITにおける課題の解決に取り組む場合、協調体制の新価値創造に着目し、価値を最適化する成果をつくる。流通や消費者がどのように価値を感じているか、または感じていくかなどが、フロントのWebやバックのシステムを活用してモニタリングし、随時アップデートされてコントロールされていくことになる。
二つの課題のどちらを優先するかは、企業の文化や取引先との連携状況によって変わってくる。ここで考えなければならないのは、新しい価値をつくり出す協調体制にどのように投資するかということだ。
はじめは、流行を追うようにSDGsやIT化に取り組もうという程度で構わない。筆者の経験では、最初の核となる協調体制を築こうと覚悟し、仲間づくりをはじめることから、生き残るためのIT化がうまく回りだしている事例を見てきている。
■執筆者プロフィール

村本睦子(ムラモト ムツコ)
ITコーディネータ
官公庁向けシステムエンジニア、まちづくり、6次化支援に携わる。現在、北陸先端科学技術大学院大学で博士後期課程の学生をしながら、顧客企業の新規事業やSDGs経営のコンサルティング、IT経営支援を行っている。