環境配慮というと、少し前までリサイクルなどの頭文字をとった「3R」であったが、近年、リペア(長く使う)など、「18R」とエッジを効かせた表現も目にする。産業革命から続く大量生産時代から物が溢れる飽和時代になり、将来、世界の人口増大が進む中で、過去同様の思想では地球を破壊してしまうため、資源を循環させることがサステナブル社会において重要となる。そして、新たな時代を築くための一つの手段が「サーキュラーエコノミー」だ。マッカーサー財団の「バタフライ・ダイヤグラム」を用いて整理すると、3点(資源の流量削減、両方の翼で資源を循環、最終的に廃棄物削減)が目標となる。
サーキュラーエコノミーの社会潮流と未来の兆し
産業廃棄物に比べ法規制が緩い一般廃棄物に着目すると、環境省の調べでは日本のリサイクル率は19.9%で25位(2018年度)。一方、上位3位はドイツ67.3%、スロベニア58.9%、オーストリア57.7%(Eurostat調べ)である。
日本が低い理由は、日本とEUで計算方法が異なることもあるが、「ごみ焼却の考え方」の違いである。海に囲まれ森林が多い日本は、埋立て場所が少ないため焼却する廃棄文化が根付いた。世界の焼却処理率を比較すると、OECDの調べでは日本が79.0%という(2018年)。また、焼却すると、環境面で悪臭・CO2排出や焼却残渣の問題が発生し、経済面で設備導入・運用に莫大な資金が必要になるため、焼却せず循環できることが理想である。
世界の焼却処理率
一方、焼却文化を壊す兆しを見た時に「14年リサイクル率日本一」である鹿児島県大崎町がヒントになると感じ、フィールドワークに向かったところ、「資金がなくても諦めず、生ごみと資源ゴミを分け循環するルールを築いた情熱」「ごみ収集所を「ゴミ捨て場」から「楽しく会話する場」に変える組織・体制作り」「子供達に大崎町のリサイクルは「かっこいい」と自負心を持ってもらう魅せ方(PR)」という3点の学びを得た。
人口約1万2000人の大崎町は、90年から使い始めた既存の埋立地が予定より早く埋まるという試算から切迫感が高まる中、焼却処理場のランニングコストがかかること、また新規の埋立処分場の増設も「迷惑施設」という理由から、既存埋立地の延命化を選択し、住民と企業と行政が「自分事」として取り組んだ。今後、日本にある1000以上の焼却施設の老朽化対策が自分事への引き金となり、大崎町の取り組みがモデルとなるだろう。
ワークショップ光景
(写真提供:大崎町SDGs推進協議会)
生活者をサポートするデジタルの役割
デジタルの役割は、ハードたるアセット・コンポーネントのコネクト高度化およびプロセスの精緻化、その上でソフトたる人の行動の適正化、の総合芸術といえる。具体的には、(1)製品や素材など再利用品で構成していることを可視化し、数字で把握することにより、社会貢献している実感を高める、(2)生ごみ回収・堆肥化を自動化し農地還元することにより、人手不足を解消する、(3)製品や素材を長く使い続ける業界標準や製品設計、生活者同士が相互に再利用を促せるサービスにより、資源循環行動に導く――の3点だ。
同業者と横並びの同質的な環境対応を続けると、資源や埋立場所の枯渇など限界が訪れる。そのため、コミュニティ単位で一枚岩となり、デジタルを活用した「インフィニティ・サイクル」を構築し、コミュニティ同士が相互補完することでサステナブル社会に羽ばたけるのではないだろうか。
■執筆者プロフィール

高野将臣(タカノ マサオミ)
日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 社会イノベーション事業統括本部 次世代事業開発本部
ITコーディネータ
1983年、愛知県出身。2007年、日立製作所に入社。産業業界を中心にインフラ関連のシステムエンジニアを経た後、SCMの業務コンサルティングに従事。現在は、顧客協創によるビジョンデザインやサスティナビリティ事業のプロデュースに携わっている。特に、IoT進展で社会やビジネスが生み出したデータを活用して、新たな価値を創造するデジタルプラットフォーム「Lumada」のインキュベーション活動を行っている。