人間の生活に欠かせない食。好きな時に食事ができる「飽食の時代」から数十年が経ち、SDGsに関連するメディア発信やエシカル消費における重要性の理解が深まるにつれて「崩食の時代」に入ったと揶揄されることも目にする。崩食とは、例えば偏食など食生活の乱れによる体調への悪影響、孤食による連帯感の希薄や文化継承の途切れ、型落ち品などの食べることができる食品を廃棄する食品ロス、買い過ぎや食べ残しなどの食べることができない食品を廃棄する食品廃棄に対する罪悪感の低下、と肉体的や精神的な崩れのことである。解決手段の一つとして、「サーキュラーエコノミー」の構築が重要となる。その中でも、今回は気候変動や紛争など直接影響を受ける食糧に焦点を当て解説する。
食糧の社会潮流と未来の兆し
世界の食糧需給に着目すると、現在、経済格差の背景を受け、先進国は飽食により、太り過ぎが16億人、食品廃棄物が13億トンとなっている。他方、発展途上国は食料不足による栄養不足が9億人(国連食糧農業機関=FAO調べ)と存在している。
そして、約30年後の2050年、医療技術の進展もあり、世界人口は20億人増加し、穀物需要1.5倍・肉類需要1.8倍に増加(FAO調べ)すると予測されている。つまり、約30年後の未来、日本を含めた先進国は少子高齢化が進行し、一方で発展途上国中心に人口が爆発し、世界的に食糧不足は深刻化していく。また、人口増加がトリガーとなる課題は、食糧不足以外にも農地面積不足や水不足など複数の社会課題に波及し、さらに生存以外の食の意味も考えると食文化など生活の質の向上であるQoL(Quality of Life)も重要な論点となる。
これらの複雑に絡む課題の解決に向けて、アグリテック(Agriculture Technology)やフードテック(Food Technology)が活発化している。テクノロジーに着目すると、生産面(農業含む)で、耕起から収穫までを機械を活用した自動化、代替肉(植物肉や培養肉)の生産工場などの量的向上があげられる。流通面で品質を保持したまま急速冷凍し保存できる技術、消費面でサプリなど必要な栄養素を吸収できる完全栄養食、など質的向上があげられる。
食糧問題の解決に向けたデジタルの役割
デジタルの役割は、アグリテックやフードテックの点となる各要素技術を、面としてバリューチェーン上に取り込み、多様化する生活者のライフスタイルや企業の環境配慮行動、行政の施策に合わせて、環境価値と経済価値に変換する仕組みの提供である。
具体的には、(1)フィジカル空間:自然豊かな地方で農作物を作り・消費する地産地消、あるいは経済面で豊かな都市と共有。一方、都市では長期保存可能な調達や完全消費する食品ルートを作り廃棄ロスを削減、など地域機能に合わせて食品・金を還流する、(2)デジタル空間:バリューチェーン上に生産・輸送時のCO2や水などの環境負荷を可視化し、農作物の生産手法や賞味期限が近い商品マッチングなど生活者や企業に環境配慮行動を示唆するレコメンド、さらに環境配慮した行動に対するポイント付与などで経済価値に変換する、の2点だ。
危機感を共有し、「社会課題に前向きにチャレンジしよう!」と共感し、その共感し合える仲間たちと未来に向けて今を創るために考えてみてはいかがだろうか。
■執筆者プロフィール

高野将臣(タカノ マサオミ)
日立製作所 デジタルシステム&サービス統括本部 社会イノベーション事業統括本部 次世代事業開発本部
ITコーディネータ、中小企業診断士
1983年生まれ、愛知県出身。2007年、日立製作所に入社。産業業界を中心にインフラ関連のシステムエンジニアを経た後、SCMの業務コンサルティングに従事。現在は、顧客協創によるビジョンデザインやサスティナビリティ事業のプロデュースに携わっている。特に、IoT進展で社会やビジネスが生み出したデータを活用して、新たな価値を創造するデジタルプラットフォーム「Lumada」のインキュベーション活動を行っている。