「カスタマーサクセスマネージャー(CSM)」と聞いて、どのような職種かイメージできるだろうか。近年、特にIT業界で注目されている職種で、一般的には顧客が製品やサービスを購入した後の解約を防ぐために活用を推進する立場だ。しかし、日本IBMの第二カスタマーサクセス部長であり、カスタマーサクセス関連でさまざまな講演も行っている戸倉彩は「CSMは課題解決のプロ」と、この職種のミッションを幅広く捉える。この連載では、筆者(日本IBM・園田緋侑子)がカスタマーサクセスに関わる社内のキーマンと対談し、カスタマーサクセスで実現するITベンダーとユーザー企業のこれからの関係を探っていく。
戸倉 彩
テクノロジー事業本部カスタマーサクセス部長
企業とITエンジニアが共創するDeveloper Relationsに注力。
2018年5月、日本マイクロソフトのテクニカルエバンジェリストから、
日本IBMのデベロッパーアドボケイトに転身。
21年1月、カスタマーサクセスに軸足を置く。
カスタマーサクセスとは
園田 「カスタマーサクセス」と言った時に「お客様の成功」という一般的な意味と、組織名としての意味があるのかなと思います。さらに、「CSM」というと職種を意味するのかなと。
戸倉 そうですね。例えば、「お客様の成功とは?」と聞かれたらどのように説明しますか。
園田 難しい質問ですね。我々にとってのお客様(ユーザー企業/パートナー企業)のお客様(エンドユーザー)への価値提供をすることで、企業が成長していくことですかね。
戸倉 数年前から「カスタマーサクセス」という用語をあちこちで耳にするようになり、自分なりに情報収集をしました。あらゆるビジネスはお客様の成功の上に成り立っていると理解していたので、少々不思議な気持ちになったからです。注目されている背景を理解しておくべきなのではないかと思いました。例えば、『カスタマーサクセス・プロフェッショナル』(英治出版)では、「カスタマーサクセスは新しい思考・行動様式であり、カスタマーサクセスマネージャーはそのアンバサダー」と紹介されていたことが印象的でした。
園田 ベンダー企業は製品やシステムやサービスを提供する、お客様はそれを利用するといった従来の単純な構図が崩れてきたということでしょうか。
戸倉 構図が崩れたのではなく、ビジネス形態が変化してきた現れだと理解しています。例えばサブスクリプションという言葉もよく聞くようになったと思いませんか?
園田 確かに、ITに限らずシェアリングエコノミーの考え方が広がり、モノを所有するのではなく必要な時だけ「利用する」ビジネス形態がメジャーになってきている気がします。
戸倉 さまざまビジネスにおいてサブスクリプション型でサービスが提供されていることを背景に、企業ではそれを戦略的にマネジメントする役割を担うカスタマーサクセスマネージャー(CSM)と呼ばれている職種が誕生しています。
IBMカスタマーサクセスと他社との違い
園田 CSMはSaaSを提供している企業でいち早く取り入れられている印象があります。ジレンマなのはIBMの場合、提供形態や製品もさまざまで、例えばソフトウエアの場合、ライセンスはサブスクリプションだけれど使うためには導入や構築が必要で、SaaSと違ってそう気軽に使い始めることも使い終えることもできない部分があるのですよね。
戸倉 購入いただく方の立場に立って考えると従来の永続ライセンスとサブスクリプションライセンスの選択肢が用意されていることが望ましいと考えられます。CSMはサブスクリプションビジネスのためだけではなく、先ほど園田さんが話していた「お客様の成功」を導くために必要なものであると、私自身は理解しています。
園田 「お客様の成功」のためには背景や商流も理解した上でプリセールス的なところから始まり、導入/構築後の利用推進など業務が多岐にわたると感じています。私自身は、「どうチームで動くと一番お客様のためになるか?」を常に意識して、社内のお客様担当チームのメンバーをどれだけ巻き込めるかが重要だと思っています。
CSMの支援ステップパートナー商流の場合も含め、
製品利活用のため中長期的に顧客へのアプローチを行う
戸倉 実際にカスタマーサクセスを実現するためにはコミュニケーションスキルをはじめとしたマルチスキルと経験が求められていて、その点に悩むCSMも多いようです。
企業の枠を超えてCSMがナレッジ共有やネットワークを広げるためのコミュニティーなども誕生しています。例えば「CS課題解決コンペティション」に参加したのですが、CSMは課題解決のプロであるという原点に立ち返ることができました。
園田 コンペまで実施されているのですね。あらゆる製品やサービスは誰かの「課題解決」が目的だと思いますが、CSMはそのプロだということですね。
■執筆者プロフィール

園田緋侑子(ソノダ ヒユコ)
日本IBM テクノロジー事業本部カスマターサクセスマネージャー
2015年、日本IBMグループ会社に新卒で入社後、主に(Watson製品Watson Assistant/WEX/Watson Discovery)を使ったアプリの開発者や製品スペシャリストとして従事。EC業界の顧客を通じてアジャイルプロジェクトを経験し、21年7月、日本IBMに出向。現在は保険業界における顧客のCSMとして活動。