前回は、MIJSビジネスネットワーク委員会の森脇匡紀委員長が「“ももクロ運営”と結び付けてDX成功の秘訣を解説」という切り口で「人やチーム作りの本質」に言及した。この流れを受けて情熱的に語るのも一貫性があると思うものの、MIJSは「ソフトウェアで日本を強くする」を目的に活動を続けている集団でもある。今回は、左脳(ロジック)・右脳(パッション)の双方を絡め、DX時代のソフトウェア開発と携わるITエンジニアの切り口で「IT業界の進化につながる未来」について言及してみたい。葉加瀬太郎氏の”冷静と情熱のあいだ”が、本コラムのイメージ曲である。
日本のIT業界
幅広い産業でITの活用は不可欠となり、成長戦略に「DX」を掲げる企業も増えた。コロナ禍のリモートワーク需要も後押しし、各社のIT/デジタル化の機運は高まり続けている。ITは社会に必要な基幹技術となり、先人の資産を後世につなげ、より良く発展させていくことは社会人の責務ともいえる。一方で、このIT業界にも将来に影を落としかねない問題も内在する。
そこで、DX時代のソフトウェア開発、そしてIT人材(ITエンジニア)の観点から、その一端を取り上げ、問題の警鐘とともに、将来に向けての指針を示したい。
静かに進むパラダイムシフト
企業戦略上のDXは、将来の競争優位実現が強く求められる。それは、技術・手法の採択にもその意図が表れる。例えば、ビジネス変化への即応を狙うSoE/SoR分離とアジャイル開発であったり、クラウド化を突き詰めるサーバーレスアーキテクチャーであったりという具合だ。
目的にもよるが、近年ではJAVAが不適合となるケースも珍しくない。代わる形で、あくまで一例としてTypeScript、React、Vue.js、Node.jsなどの採択も目立つようになってきた。今はまだ極論の域だが、いずれはJAVAがCOBOLと似た位置付けになってもおかしくはない。それほどの変化がDXの現場で日々起こっている。
これらは取り組みの機密性ゆえ詳細がオープンになるケースは少なく、その場にいない者からは見えづらい。しかし気づいた時には“ゆでガエル”となりかねない、静かに進む現代のパラダイムシフトである。
DXが照らす光と影
このパラダイムシフトをどう解釈すると良いのだろう。ITエンジニアに変化適応が重要、という単純な話ではない。(1)日本のITエンジニアの約半数は中小企業に所属、(2)中小の多くは大手の下請け(かつ多重下請け)で、技術の選択権は限られると共に、保守など技術変化に乏しい作業に従事、(3)商売上からも生産性は無視できず、結果スキル経験者を求め、未経験者は招きたがらない――という点も認識する必要がある。
要は、COBOLエンジニアがCOBOL開発を、JAVAエンジニアがJAVA開発を続ける。中小下請けではリスキリングの機会がなく、未来志向のモダンな開発に触れる機会はめったにめぐってこない。変化適応しようにも、その機会からの断絶がある。
これは中小企業の数と相まって、日本のITエンジニアの少なくとも3人に1人ともいえる規模で起こっている。この先にある業界の未来はいかなるものとなろう。今でも日本のITエンジニア不足が叫ばれて久しい。まだ置き去りを増やすのか。
DX化の機運、IT業界においても未来への光である。一方、IT業界の中小企業、ここには地方の中小IT企業も含めて、技術的にも経済的にも暗い閉塞感がある。輝きの下の影はまた深い。
進化を阻む難題の先に
では、どのような打開策があるか。カギはあるように見える。そう、DXを顧客と元請けベンダーだけでなく中小含め一丸で取り組めば良い。アジャイル開発で後押しできる時代でもある。
しかし、これは「言うは易し」の典型でもある。これまでの常識のままでは遠く及ばない。自社・外注、業務委託・偽装請負防止の名のもとの責任分解と丸投げが、「一丸となって」を骨抜きにする。
長年のウォーターフォール型開発の経験も時に枷になる。指示待ち・受け身のエンジニア実務者気質がアジャイルの双方向連携を機能不全にさせる。強く意識付けしないと、染みついた習慣は変わらない。
そして、何より中小IT企業の数が実現を阻む。顧客・元請けからは、約2万5000社にも及ぶ日本の中小IT企業は一部どころかほとんど見えていない。実際、何階層か挟んだ多重下請けの先から仕事に参加しているのだ。直接見えないどの企業の所属かわからない誰かと、どう一丸になれというのか。このような難題の先にある道なのだ。
底力が眠る日本、あまねく光でその力を呼び覚ます
そのため、当社ではDX事業を手掛けている。そして中小IT企業を1社1社自ら足で回った。創業以来、その数は約5000社に及ぶ。その上で、受託したDX開発に中小IT企業のエンジニアにも声をかけ多くを招いた。アジャイル開発を通じ、協力会社メンバーにも技術や目的/提案型考動の重要性を伝え続けた。
顧客のミスミ・当社・中小IT企業のエンジニアで力を合わせ形にしたDXサービス「meviy」
日本のIT業界には、中小IT企業のエンジニア約50万人の底力が未覚醒の状態で残されている。そこに伸びしろがある。DXで変化のある時代、置き去りは寂しい。この秘める力を引き出しつつ共に歩めないだろうか。
DXは顧客の戦略であると共に、IT業界の未来を照らす光にもなる。その光が、それぞれの成長と人生を豊かにする機会につながることを願い、これからもMIJSをはじめ、仲間たちと共に進みたい。
■執筆者プロフィール

金子武史(カネコ タケシ)
コアコンセプト・テクノロジー 代表取締役社長CEO
MIJS(Made In Japan Software & Service Consortium) 経営者委員会委員
製造業向け業務改革を強みとしたベンチャー企業に2000年に新卒入社。CAD/CAMシステム開発、分散計算システム開発、自社工場立ち上げなどに従事。その後、コンサルタントに転身し、製造、金融、小売、流通など多くの産業の業務改革を支援。10年、コアコンセプト・テクノロジーに入社。15年、代表取締役社長CEOに就任。21年、東証マザーズ市場(現東証グロース市場)に上場。DX実現支援・IT人材調達支援の2事業を展開。