日本企業の経営者の多くはITに過大な期待をすることなく、投資対効果の見えないものとして距離を置いてきたように思われる。日本企業の経営の特徴でもある現場重視の指向からボトムアップによる経営をしてきたことにより、経営者自身がデータを読み解き意思決定をすることのない時代が長く続いてきたこともその一つの要因である。IT業界側にも大いに責任があり、言葉巧みにIT投資を促し常に失望をさせたことも背景にあるはずである。
数十年前、日本のIT業界では「戦略的な情報システムで他社と差別化を図りましょう!」「経営の意思決定を支援するシステムの活用で経営スピードを上げましょう!」などと顧客に伝えていた。最近のDXブームもそんな匂いを感じているのは筆者だけだろうか。ただし、このブームにより経営者がITを本気で考えるようになったことは間違いなく、今度こそは何らかの成果を残さねばと願う日々だ。まずは、経営者の混乱を回避する意味でも単なるデジタル化と本当の意味でのDXを分けるべきであり、多くの日本企業がビジネスの足かせとなっているデジタル化への取組を加速することが急務である。
デジタル化が遅れた一つの要因としてユーザー企業が手軽に導入し業務にフィットしたパッケージソフトウェアが提供されなかったことも大きい。ユーザーニーズに合わせるためとの口上でスクラッチ開発を主体にIT産業が形成されたため、ユーザーは高額な開発コストとこれを維持するための継続的なメンテナンスコストを負担することとなる。
日本のIT産業の側面から見ても、このビジネスモデルは破滅的なものであり、新たなテクノロジーが生まれることなく、ただ貴重なエンジニアを無駄に浪費する時代が続いた。もう一つの失われた30年である。
本来は汎用機の時代からオープン環境に移行した1990年前後で「transformation」すべきであったのはITベンダー側であり、顧客にDXを論じていることに自責の念も含め喪失感を覚える。そのツケが、最近の報道で話題となった「デジタル関連の国際収支赤字4.7兆円」である。
パラダイムがシフトする時こそ変革のチャンスであり、ChatGPTに代表されるAIの劇的な進化に期待すべきである。単純なソースコードを書くことはAIに任せて人は新たなアルゴリズムを創出することに集中する。ここで生み出された新たな価値は多くのユーザーに展開されることで開発したエンジニアに大いなるリターンをもたらす。圧倒的なパフォーマンスを発揮する独創的なアルゴリズム、心地よいユーザー体験。そして進化したAIを搭載した新たなクラウドサービスがメインストリームとなるはずだ。
エンドユーザー自身で最適な機能を担えるSaaSを選び組み合わせることができる時代は直ぐそこにあるとしたら、そこで選んでもらえるSaaSを提供するベンダーがこの日本からどれだけ現れるものか見ものである。繁栄した産業には多様性のある優秀な人材が集まり破壊的な新しいビジネスが生まれるものだが、全ての産業に影響を与えるITであるからこそ日本でも繁栄しなければならない産業がITである。埋もれたIT人材を発掘し育て上げ、ベンダー側だけでなくユーザー側でも活躍できるIT人材が豊富に存在したら日本全体のデジタル化は加速し新たなビジネスが生み出されることだろう。
今回の「日本企業がデジタルで強くなるための処方箋」で何人かのMIJS(Made In Japan Software & Service Consortium)加盟の経営トップが熱いメッセージを書き下ろしたが、今までの日本のIT産業に疑問を感じ自らができることを真剣に実践してきた立場であるからこそ力強い内容となっていると思われる。このMIJSメンバー企業の中から世界の流れを変えるようなイノベーターが現れることを願いたい。
ビジネスモデルの違い
■執筆者プロフィール
内野弘幸(ウチノ ヒロユキ)
ウイングアーク1st 会長
MIJS(Made In Japan Software & Service Consortium)常務理事
1979年、SI事業を主にするIT企業に新卒で入社し、営業やSEを経験する中で提供する側も利用する側も満足度が低いビジネスモデルに疑問を感じ、92年、パッケージソフトウェア開発を主体にしている翼システムに転職し新規パッケージソフトウェアの企画を担当する。2004年、翼システムで自ら立ち上げたSVFやDr.Sumビジネスを切り出しウイングアークの社長としてビジネス拡大を図る。18年、取締役会長となり現在に至る。