ビジネス拡大の切り口(2)
ITとオフィスを融合
3000億円市場の創出へ

内田洋行が提供するテレプレゼンス・ビデオ会議システムの一例
テレプレゼンス・ビデオ会議システムを販売するうえで重要になってくるのが、ユーザー企業の会議室がどのような構造になっているかだ。SIerのなかにはファリシティ(家具・什器)と組み合わせて提供するケースが出てきた。システムだけでなく、会議室のあり方も提案できることは、利益を生み出すビジネスにつながりそうだ。
テレプレゼンス・ビデオ会議システムを“情報システムとオフィス家具の融合”と捉えているのが内田洋行である。同社は、ITとオフィス家具を総合的に扱う「唯一の会社」(内田洋行の柏原孝社長)と自負しており、IT機器や通信、オフィス家具を組み合わせた独自の商品づくりに力を入れる。
テレプレゼンス・ビデオ会議を快適に行おうとした場合、情報機器を揃えるだけでは不十分だ。あたかも相手が同じ会議室に同席しているような臨場感をもたせるには、会議室のオフィス家具を含めた“環境づくり”が重要となる。内田洋行はここに目をつけたわけだ。
折しもオフィス家具市場は、厳しい状況にある。内田洋行は、昨年度(2009年7月期)のオフィス関連事業の連結売上高が前年度比27.2%の大幅減となったことに加え、24億円の最終赤字に転落した。柏原社長は、「ここまで急激に落ち込んだのは初めての経験」と表情をこわばらせる。
この状況は単純にオフィス家具需要が縮小したのではなく、需要の中身そのものが変わっていると同社では分析している。その対応策として、内田洋行では、「ユビキタス・プレイスを創造するインテグレータになる」との方針のもと、情報システムとオフィス家具を融合させることで、新規需要を取り込む考えだ。
同社では、国内のオフィス家具市場はおよそ2000億円で、オフィスと密接に関係ある情報システムの市場規模が約12兆円と捉えている。双方を組み合わせてユビキタス・プレイス需要を引き出せば、既存の市場とは別に「新しく市場3000億円の創出が可能」(武幸太郎・取締役専務執行役員オフィス事業部長)と予測。オフィス家具の不振を、こうしたユビキタス商材によって打破する戦略である。
そこで筆頭候補に挙げられるのが、テレプレゼンス・ビデオ会議システムである。
大画面のモニターと、ビデオ会議を想定して設計・開発した会議室用のオフィス家具を組み合わせることで、快適性を向上させる。さらに、立体視が可能な映像や写真、「拡張現実」と呼ばれる現実世界(三次元)のなかにバーチャル映像(二次元)を持ち込む技術でユビキタス・プレイスに応用する研究も重ねる。立体映像やバーチャルな情報を現実空間に持ち込むことで、テレプレゼンス・ビデオ会議に臨場感、説得力をもたせるのが狙いだ。オフィス環境に最先端のIT技術を取り込むことによって、生産性を向上させる。
ほかにも、セミナーなどのイベントで、来場者の携帯端末と、会場に据え置いたディスプレイの画面とを連携させるシステムを開発。iPhoneなどの端末に簡易的なアプリケーションをダウンロードすることで利用できる。会場のディスプレイと無線LANなどで連携し、ユーザーの行きたい場所へと案内する仕組みなどを開発する。
オフィス家具の市場縮小に伴い、オフィス系の販売代理店の疲弊が目立つという。中小の販売パートナーでは後継者難にも見舞われるケースがあり、「新商材を早く投入しなければ、これまでパートナーとともに築いてきた販路が荒廃しかねない」(武専務)と危惧する。時間的余裕はなく、ユビキタス・プレイス戦略の迅速な拡大が求められている。