SIerの改革・再編の勢いが増している。大手SIerのM&Aや、メーカー系SIerの相次ぐ上場廃止──。緩やかな成長が続き、“ぬるま湯体質”と揶揄されてきたSI業界の空気が一変。ビジネスモデルの見直しや、M&A、グループ再編によって勝ち残りを目指す動きが一気に活発化してきた。SIerが何を考え、何を目指しているのかを探る。
有力55社で2800億円消える
市場縮小で再編が加速
SIerの改革・再編を促しているのは、国内情報サービス市場の急激な縮小である。本紙集計の有力SIer55社をみても、直近上半期で2800億円余りの売り上げが消えた。経済産業省の特定サービス産業動態統計では、国内情報サービス業の売上高は昨年9月のリーマン・ショックの発生から右肩下がりの傾向が続いている。そのため、大手SIerはソフト開発の外注費を削減。内製化による自社開発人員の空き工数の抑制に懸命だ。
利益440億円余りが消失 週刊BCNが独自に集計した有力SIer55社の直近上半期の売上高合計は、前年同期比9.3%減の2兆8228億円、営業利益は25.6%減の1290億円だった。金額にすると売り上げは2886億円、営業利益は443億円も減った。有力55社だけに限ったものだが、それでも超大手のSIer1社分の売上高が吹き飛び、数社分の利益が消えた計算になる。「長く取り引きしている重要顧客からの値下げ要求は、ある程度応じざるを得ない」(NTTデータの山下徹社長)事情もあり、利益が売り上げ以上に削られた格好だ(詳細は13面)。
さらに追い打ちをかけるのが、海外からの圧迫要因だ。中国やインドなど新興国のソフト開発パワーが増大し、米国発祥のクラウド/SaaSの勃興など、ITアーキテクチャの転換がそれだ。内憂外患の状況下で、SIerは変化適応を急ピッチで進めている。調査会社のアイ・ティ・アールによれば、昨年度(2009年3月期)の国内IT投資額は前年度比マイナス3.8%に落ち込んだ。10年度に向けていったん底を打つ可能性はあるものの、ここ1~2年での急激な回復は期待薄とみる向きが多い。
顕著な動きをみせるのがメーカー系SIerだ。今年に入って、富士通が上場SIerの富士通ビジネスシステム(FJB)を完全子会社化。グループ連携の強化と引き替えに上場廃止になった。日立製作所も、富士通の後を追うように日立情報システムズと日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービスの上場SIer3社の完全子会社化を表明。NECはこの10月にグループ主要SIerの営業部門をNEC本体と中堅向け販社のNECネクサソリューションズに集約した。NECソフトやNECシステムテクノロジーなどは営業部門を解散。ソフトの設計・開発に専念する。
メーカー系SIerの異変 完全子会社化や営業の集約は、企業ガバナンスを強化し、メーカー本体と一体的な運営を可能にする。従来からあった、メーカーがハードウェアをつくり、系列SIerがソフト・サービスの“おまけ”をつけて売るという構図が崩壊。近年では、ハードに代わって、付加価値の高くなったソフト・サービスを「メーカーが売り歩く」(メーカー系SIer幹部)状態になっていた。SIerの完全子会社化は、ビジネスの主軸となったソフト・サービスをメーカー本体のビジネスの基盤として取り組み、自らが巨大なSIerになる動きでもある。
日立情報システムズと日立ソフトウェアエンジニアリング、日立システムアンドサービスの3社の直近の年商を合計すると4840億円。日立製作所本体が手がけるソフト・サービス事業を合体させることで、巨大SIerとして振る舞うことになる。ただ、苦労して株式上場を果たしたにもかかわらず、日立本体の事業を支える基盤として組み込まれるのに、抵抗感をもつ人が少なくないことも事実。グループ3社の関係者は、「それぞれが黒字の優良SIerだったが、日立グループの赤字を埋めるほどの収益力はなかったことが、結果的に日立本体に取り込まれることになった理由だ」と指摘する。
SIerノウハウを基盤に 日立製作所は昨年度(09年3月期)、連結ベースで7873億円もの純損失を出しており、同社が強みとする社会インフラを軸に事業を立て直すことを表明している。ある関係者は、「日立から社会インフラを除いたら、何が残るのか? この一番の強みを伸ばすには、グループSIer3社のITノウハウがどうしても欲しかった」とみる。電力や交通、環境などのインフラビジネスを伸ばすには、ITの基盤技術を付加価値の中核部分として必要だったわけだ。
NECも事情は似ている。この9月末で百数十人からなる自社の営業部門を解散したNECソフトは、営業機能をNEC本体やNECネクサソリューションズに移管した。マーケティングから受注に至るまでの営業プロセスをNEC本体がリードし、傘下のNECソフトやNECシステムテクノロジーは開発に専念。これによって業務効率を高めて、コストを下げ、グループ全体の競争力を高める。とはいえ、従来から両子会社は独自の営業活動に力を入れてきただけに、内心忸怩たる思いが残るのは実際のところだろう。今年6月、NECソフトのトップに就任した古道義成社長は、「社員のモチベーションを高める」ことに神経を使っている、と明かす。
具体的には、NECグループ全体の連結業績の向上を第一目標とし、NECソフト単体がたとえ赤字になったとしても、連結のビジネスユニット全体で増益を果たしたら評価されるというのだ。こうした仕組みをつくることで、モチベーションの維持向上に努める。しかし、実際問題として、グループ事業会社の収益を度外視するわけにはいかず、本体やグループ会社の事業の再編をより加速させるなどの抜本策が必要であることに変わりはない。
「八ヶ岳方式」で大連合へ 非メーカー系SIerの再編も急ピッチで進んでいる。大手SIerのITホールディングス(ITHD)は、年内をめどに準大手のソランを傘下に収めると発表。これまで野村総合研究所と年商を競い合っていたITHDだが、ソランをグループ化することで年商4000億円規模の実力をもつSIerとなり、トップのNTTデータにまた一歩迫ることになる。ITHDは、インテックグループとTISグループが経営統合して08年4月に発足。傘下にインテックやTIS、ユーフィット、アグレックスなど有力SIerを抱え、ここに年商600億円クラスのソランが加わる。グループ形態は、それぞれ事業領域が異なるSIerの集合体で、ITHDの岡本晋社長は、グループ形態を「八ヶ岳方式による連合」と喩える。
インテックの金岡克己社長は、「関西系のスーパーと北陸系のスーパーが経営統合し、共同仕入れなどで競争力を高めているようなもの」と話す。関西出身のTISと北陸出身のインテックのことを指しているわけだが、今回グループに迎え入れるソランのルーツは長野県の旧松本計算センターにある。その後、旧スタット、旧日本タイムシェア、旧長銀情報システムなどと統合して、現在のソランに至る。ITHDは危機感を共有し、ともに成長を目指すSIerと連合する道を選んだ。規模のメリットを生かして一大勢力にのし上がろうとするSIerの再編劇を象徴する存在になりつつある。

ITホールディングスの岡本晋社長(左)とソランの千年正樹社長
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