スマートシティの事例
NTTデータ
都市向けスマートITを海外で本格展開へ
スマートITの専任チームを立ち上げ、スマートIT事業を統合化しているNTTデータ(2面参照)は、速いスピードで成長するアジアの都市に目をつけて、都市インフラの改善を目指したソリューション展開を強化している。今年4月、東京・豊洲の本社の近くにオープンしたショールームで、スマートな都市を実現するための「M2M(Machine to Machine)」のソリューションをお披露目した。
NTTデータは、ネットワークを介して機械同士が情報交換を行う「M2M」のプラットフォームサービスを、スマートIT展開の柱としている。サービスは、M2Mプラットフォームが建築物や公共インフラをセンサーでつなぎ、エネルギー管理や施設管理、経年劣化監視、防災、福祉サービスなどを実現するもの(図3参照)をはじめ、センサーによって自動車の運行状況を把握し、車両ごとの運行管理や道路の渋滞ナビゲーションなどに活用できるサービスなどを提供していく。
アジアの都市化が加速  |
NTTデータ 吉岡功二 室長 |
NTTデータは、スマートIT展開の重点市場として、都市化が進み、政府がインフラ改善に関する認識が高い中国やAPAC(アジア太平洋地域)の国々を狙っている。NTTデータの調べでは、2025年まで東アジアのおよそ半分の人口が都市に集まり、中国やインドを中心として、2050年をめどにエネルギー需要が現在と比べて約40%拡大するなど、アジアでは都市向けのスマートITを展開する巨大市場が誕生しつつある。NTTグループでスマートIT戦略を統括するグループ経営企画本部経営改革推進部スマートビジネス推進室の吉岡功二室長は、アジアでの需要拡大を受けて、「われわれの出番が来た」と自信をみせている。
吉岡室長は、「定期的な電話会議などを通じて海外拠点との連携を強めており、各国からのさまざまな情報を集めている。情報の分析を踏まえて、各事業本部の動きをコーディネートする」と、動きのパターンを語る。NTTデータは「全社を挙げて」(吉岡室長)、スマートITの事業拡大を経営戦略の新たな柱としていく考えだ。
M2Mモジュール事業が活発化  |
チン・ヨウ 端末本部担当部長 |
NTTデータなどが展開するM2Mの普及は、M2Mプラットフォームを構築するための関連製品を扱うメーカーにとってもビジネスチャンスになる。
中国最大手の情報通信技術ベンダーである華為技術の日本法人、ファーウェイ・ジャパンは、通信キャリアに提供するM2Mモジュールの事業で、確かな手応えを感じている。
端末本部のチン・ヨウ担当部長は、「当社は以前からM2Mモジュールを展開しているが、今需要が高まり、今年後半からM2Mモジュールビジネスの活発化が端末事業の売り上げに反映されると見込んでいる。今後は、キャリア以外にも積極的に展開していきたい」と意気込みを示す。
端末事業の大幅な拡大に取り組んでいるファーウェイだが、コンシューマ向けの携帯電話やモバイルWi・Fiルータだけでなく、法人向けのM2Mモジュールも、期待できる商材となりそうだ。
「モノのインターネット」の事例
NECネッツエスアイ
節電や在宅勤務のソリューションを強化
NECグループのネットワークベンダーであるNECネッツエスアイは、ネットワークを介して機器同士を接続し、オフィスでの電力使用の見える化や会議のペーパーレス化を実現する「EmpoweredOffice」の事業拡大に取り組んでいる。同社は、昨年、本社を東京・品川から後楽のビルに移転した際に、「EmpoweredOffice」のさまざまなソリューションを自社内に導入しており、新オフィスの各フロアをユーザー企業が見学できる巨大な“ショールーム”にしている。
外資系から問い合わせ増大  |
NECネッツエスアイ 榮永有希子 主任 |
「EmpoweredOffice」のソリューションは、「空間」「ICT(情報通信技術)」「ファシリティ」の三つを融合し、コンサルティングやITインフラ構築を中心として、机のデザインまでをカバーする。NECネッツエスアイは、iPadなどの新型デバイスの普及に対応して、スマートフォンやiPadを活用し、紙資料を端末に配信するなどのソリューション展開を強化している。震災の影響でBCP(事業継続計画)の重要性が高まるなか、遠隔からも会社の情報にアクセスすることができる同社ソリューションは、在宅勤務へ活用できるものとして注目を集めている。
SI&サービス事業本部マーケティンググループの榮永有希子主任は、「ここ数週間、外資系企業を中心に、夏に向けて社員の在宅勤務を検討するお客様からの問い合わせが急増している」と、好調ぶりを語る。
同社は、これまでユーザー企業の総務部門から「EmpoweredOffice」についての問い合わせが多かったというが、企業がマネジメントレベルで節電/在宅勤務の施策を急ぐようになり、「ここにきて、総務ではなく、管理職の人が直接当社のオフィスを見学することが増えてきた」(榮永主任)のだ。都市全体よりスマート化が実現しやすい事業所単位で、スマートITの浸透がスピードを上げているようだ。

東京・後楽にある新オフィス
記者の眼
福島第一原発の事故を受け、全世界で、エネルギー使用を根本から考え直す動きが活発になっている。DRや節電につながるソリューションをはじめ、スマートITを本格的に展開していくときが来た。
スマートITの市場開拓に向けては、大手ベンダーがいち早く動き出している。しかし、都市などの広いエリアでスマートITを実現するためには企業間の連携が必要不可欠なので、中堅・中小のIT企業にも市場開拓のチャンスは確実にあるはずだ。