ビッグデータ活用製品続々と
構造化・非構造化データを分析 高頻度で発生するデータを処理するためのツールを、さまざまなベンダーが展開し始めている。
米IBMは、データ・アナリティクス事業を注力分野の一つに位置づけて、ビッグデータ分野だけで、グローバルで1億ドルの投資を行っている。現在は、製品開発や企業買収でポートフォリオを拡大している段階だ。
日本IBMは、ビッグデータを分析するプラットフォームを今年5月に発表した。構造化・非構造化データを大量分析する「IBM InfoSphere BigInsights」だ。そのほかにも、頻繁に発生する大量なデータをリアルタイムに分析するストリーム・コンピューティング製品(CEP)「IBM InfoSphere Streams」がある。「IBM InfoSphere BigInsights」は大規模データを効率的に分散処理・管理するためのオープンソースソフトウェア(OSS)「Apache Hadoop」の技術を基盤としており、企業の情報システムを開発する際に使いやすいかたちでカスタマイズしてある。これに加えて、「IBM InfoSphere Warehouse」「IBM DB2」「Netezza」などの既存のデータベースやDWH(データウェアハウス)との連携機能ももっており、いわゆる従来型の構造化データも含めて新しい知見を発見していくことができる。
また、ストレージベンダーであるEMCジャパンも非構造化データの処理に着目している。これまでの事業と近い分野である「ビッグデータ」に商機を見出し、昨年9月にITベンダーの米グリーンプラムを買収。構造化データを分析するためのデータを蓄積するDWH「EMC Greenplum Database」、GPSによる位置情報や画像、コンテンツ、映画、音楽など膨大な非構造化データを分析する「Hadoopの企業版」「EMC Greenplum HD」として提供している。この2製品を連携するミドルウェアは内蔵するかたちで提供している。
日本マイクロソフトは、「Microsoft SQL Server 2008 R2」の機能の一つとしてリアルタイムにデータを処理するCEP「Stream Insight」を提供している。また、これまで同様、分析するために成形したデータを格納するDWH、そして集約してレポーティングする製品をもっている。
注目すべきはSAPジャパンの動向だ。昨年から新製品として、「インメモリカラム型」のDB製品「SAP HANA」を提供。国内外のサーバーベンダーと組んで、アプライアンス化して出荷している。
従来のディスク型のDBは、処理するデータ量が増えたときに、処理速度が遅くなるなどのボトルネックを抱えている。処理時間を速くするにはお金がかかる。コストをかけたくなければ、処理するデータ量、もしくは処理時間を犠牲にしなければならないという「量」「処理時間」「コスト」の関係が企業を悩ませていた。それが、「インメモリ型」のDBなら、価格がとても安くなっているメモリに、膨大なデータを展開することで処理時間を早くでき、コストも下げることができるのだ。
NTTデータの取り組み
分析の独自方法論展開  |
NTTデータ 稲葉陽子主任 |
これら製品の売り手となるSIerではどんな取り組みを展開しているのだろうか。NTTデータでは、「独自のデータ分析方法論『BICLAVIS』と、SIerという立場からのIT基盤・ツールへの中立性や、グローバルでの販売実績をもとに、業務、システム、人・組織の面からBIの分析の仕方をデザインするとともに、顧客が備えるべき、BIの成熟度に到達させるためのサポートを行っている」(技術開発本部 IT活用推進センタの稲葉陽子主任)とのことだ。「BICLAVIS」をベースとして、顧客のBI/DWH製品選定を支援する「BI/DWHラボ」や、顧客のデータを預かって分析し、コンサルティングする「データ分析コンサルティング」、あらかじめ用意した分析モデルを活用して試行診断を行う「クイック診断サービス」を提供している。
「BICLAVIS」では、BIを九つの分析シナリオに類型化して、その分析手順をテンプレート化している。これにより、効率的かつ効果的にデータ分析を行うことが可能になる。それを一般にいわれる「四つのBI」に当てはめると、次のようになる。
すなわち、(1)蓄積したデータをさまざまな角度から集計・分析して見える化することで、計画業務、経営管理、需給調整などに役立てる「集計分類型」、(2)蓄積した膨大なデータから、隠れた関係性や規則性を発見する「発見型」、(3)業務方式の変更に伴う効果を事前に試算して新しい業務方式をデザインすることでSCMの最適化などにつなげる「WHAT-IF型」、(4)ユーザーの行動を理解し、一歩先回りして、気の利いたサービスや機能を提供する「プロアクティブ型」の区分である。このうち、NTTデータでは、大規模リアルタイム・データ分析に基づく「プロアクティブ型BIサービス」への対応をブラッシュアップしている。そこで考えているのが、センサーなどから上がってきたデータを、リアルタイムに、超高速に「CEP」で処理し、分析ロジックを適用して付加価値のある情報に変換し、それをユーザーに提供するとともに、同時に蓄積される大規模データを再分析して分析ロジックを更新する──というものだ。
データの処理は、基盤製品の特性が異なることから、データの発生頻度や大きさに応じて「CEP」「Hadoop」「DWHアプライアンス」「インメモリDB」をハイブリッドで使い分けて処理するというアーキテクチャだ(図参照)。NTTデータでは、4年前から、橋梁モニタリングシステム「BRIMOS」の実証実験を行っている。そのなかで、実フィールドでリアルタイムにデータを分析し、異常を検知する実験を行った。
NTTデータは、企業がビッグデータを活用するメリットは、「社会」でいえば、低経済成長、環境保護、少子高齢化、省電力という「限られたリソースの有効活用」にあるとみている。また、対象が「企業」なら、グローバル競争が激化し、予測困難なマーケットで、変化の予兆を察知してアクションを起こす。また「個人」に対して、スマート端末や、ソーシャルメディアを介して、知的サービスを提供できる点にあるとする。単にデータを分析するのではなく、情報分析・活用のシナリオをもとに、データ分析をどのように高度サービスに結びつけるかが重要なのだ。
NTTデータでは、この8月から銀行の決済データを分析して、情報を提供するサービスも開始した。同社は先進国で培った実績をもとに、高度BIのノウハウをアジア・太平洋地域で展開することを目指す。
ビッグデータの活用事例
ムダの削減で効果を引き出す ビッグデータを活用する事例は、グローバルでいくつも現れ始めている。IBMでは「ITを使って地球を賢くする(都市、企業にムダをなくす)」、「Smarter Planet」を推進している。「都市」を賢くした(Smart City)の一つの事例としては、交通渋滞のひどいスウェーデンのストックホルムで、拠点カメラや、車載のRFIDのデータをリアルタイムに分析して、制限を設けた時間ごとに課金を行うシステムを導入した。リアルタイムに処理し、時間帯や状況に応じて課金したところ、25%に当たる10万台の交通量を混雑時間帯に減らすことができた。
また、企業に適用した例では、カード会社のカード不正使用率を下げることに貢献した。それまでバッチだったトランザクション処理をリアルタイム処理に切り替え、知見を踏まえて分析することで、12億ドルのコスト削減につなげた。カード発行審査処理の時間短縮によって、顧客サービス向上も果たした事例だ。
通信インフラの混雑状況によって課金の仕方を変えることに成功した事例が、南アフリカで行われた動的な料金設定サービスだ。時事刻々と何%割引になりますという情報をユーザーに送ったところ、通信インフラの増強なしに、利用状況を最適化することができた。
国内事例では、コマツがグローバルに展開している「KOMTRAX」が有名だ。顧客の車両コンディション、稼働状況などを遠隔監視を行うサービスだが、これを自社の車両の販売戦略にも役立てている。
また、コンピュータが患者の症例を判断したり、薬の処方に生かすような医療/医薬分野での活用も期待されている。
NRIの事例
風評分析や交通情報などに活用  |
| 神田晴彦主任研究員 |
NRIでは、ビッグデータを活用するためのソリューションや、実際に活用したサービスを展開している。その一つが、同社のコールセンターソリューションで、すでに450社の実績をもっている「TRUE TELLER」だ。ここで「インターネットモニタリングサービス」を提供している。SNSやブログなどからデータを収集して、分析エンジンでマイニング処理を行い、それをレポーティングすることで、クレームや風評のアラートチェック、風評の震源地を解析・検知する「リスク情報」を分析。また、マーケティング施策実施前後の話題・評判をチェックできるという。同社のビジネスインテリジェンス事業部 マーケティングソリューショングループ 兼 事業企画室の神田晴彦主任研究員は、「3月11日の大震災後に、無償で提供したところ、少なくとも20~30ほどのNPOや自治体が活用し、どんな物資が必要かという情報を分析していた」と振り返る。現在はメーカーや金融機関が利用し、自社製品の評判や、投資先の情報を収集するのに活用されている。
また、NRIのなかでも、コンシューマ向けのナビゲーションサービス「全力案内!」を提供するユビ・クリンク事業部では、「全力案内!」に加えて、交通情報をもとにしたビジネスソリューションの開発やカーナビのエンジンなどの販売を行っている。ユニークなのは、「全力案内!」ユーザー(人)の情報とクルマの情報を収集した「プローブデータ」によって、詳細な交通情報提供を実現していることだ。「政令指定都市のタクシー会社と契約し、全国1万3000台のタクシーの車載機器、携帯電話から上がってくる位置・速度データを収集している」(増田有孝ユビークリンク事業部長)。これにより、国が設置しているセンサーVICSが上げてくる交通情報を補完するかたちで、より詳細な交通情報を得ることができる。現在、トヨタ自動車と提携し、スマートフォンとカーナビゲーションの共同ブランド「G-BOOK全力案内ナビ」という連携サービスを提供している。さらに、顧客の社内ビッグデータを活用している事例では、ビジネスプロセス改善に生かしている。
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