関西ITベンダーが変わろうとしている。クラウド・コンピューティングの普及やグローバル化の進展、競争の激化などに伴い、生き残りをかけた新機軸の事業展開に乗り出した。各社の取り組みをレポートする。
市場環境は激変、対応力が問われる 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、日本経済に大きな打撃を与えた。調査会社IDC Japanによると、2011年の国内IT市場規模は、前年比成長率マイナス1.6%の12兆4797億円となる見込みだ。大地震と同時に発生した原発事故や電力供給不足に加え、進行する円高が国内市場の成長に暗い影を落としている。
IT市場を構成するITサービス市場は2011年に前年度比2.1%減の4兆8368億円、パッケージソフトウェア市場は6.5%減の2兆1493億円、ハードウェア市場は1.0%増の5兆4936億円と予測している。
産業分野別では、組立製造が8.3%減の1兆2302億円、プロセス製造が7.6%減の6528億円といった数字が示すように、製造業のマイナス幅が大きくなっている。官公庁は、1.1%減の7168億円で、他の産業分野と比べるとマイナス幅が小さくなるとみている。
中堅・中小企業(SMB)の地域別IT市場は、震災の影響でIT支出が大きく落ち込む北海道/東北地方と関東地方に比べて近畿地方は小幅のマイナスに踏みとどまる可能性が高いようだ。
2012年には、国内IT市場は全体としてプラス成長に転じると見込まれている。とくに情報サービス業は、2012年に4.5%増の7351億円を見込む。震災を機にデータセンター(DC)を建設する需要が高まっているためで、実際にベンダーによるDCの新設が活発化している。関西地区のDCは、東日本のユーザー企業のディザスタ・リカバリ(DR)のためのバックアップセンターとして利用する機運が高まっている。関西電力グループの関電システムソリューションズは、DC特需に沸いており、新DCを近く開設する予定だ。
SMBの間では、サーバーやストレージへの投資で重視する点として「災害対策強化」を挙げる声が高まっている。これまでは大企業が推進してきた災害対策のための投資だが、SMBでも同様の動きがみられるようになった。京都市の京都電子計算は、こうした状況に対応すべく、事業継続(BCP)対策のバックアップソリューションとデスクトップ仮想化ソリューションの提供に注力する姿勢をみせる。
新たな需要が生まれている一方で、国内の受託開発市場は下り坂にあるうえ、円高が国内企業の海外進出を加速させて中長期的にITサービス支出の海外シフトを招くとみられており、競争が激しさを増すと予想される。京都市のスリーエースや大阪府高槻市の大和コンピューターは、受託開発を主力事業としてきただけに、大きな変革を迫られているのが実状だ。
生き残りに向けた施策として、各社はクラウドサービスやグローバル展開、特定の業界・用途向けサービスの提供に乗り出した。
大和コンピューターは、クラウド事業の推進を中・長期的に重要な取り組みと位置づけ、SaaS型アプリケーションベンダーであるフィットネス・コミュニケーションズを買収したり、自社開発のSaaS型アプリケーションの販売を強化したりしている。フィットネス・コミュニケーションズは、フィットネスクラブ向けに特化したSaaSアプリとしての強みをもつ。大阪ガスグループのオージス総研は、2011年4月、グローバルで展開する日系企業のIT支援を統括する新組織としてグローバルビジネス推進部を立ち上げた。グローバル展開を推進するにあたっては、他社との協業に積極的な姿勢をみせている。従来からクラウドサービスを主力とするISVとして、立ち位置は異なるが、顧客関係管理(CRM)で急成長している大阪市のシナジーマーケティングは、セールスフォース・ドットコムなどと業務提携し、事業の幅を広げている。CRM市場は、数あるアプリ市場でもとくにクラウドサービスが普及。同社は競争環境のなかで、クラウド事業を順調に伸ばしている。
体力の乏しい地場ベンダーにとって、他社との協業や買収は非常に重要な意味をもつ。スリーエースも単独では難しいクラウド事業の参入やグローバル展開を、行政の支援や他社との協業で実現しようとしている。
この特集では、クラウドサービスとグローバル展開、特定の業種・用途向けサービスの提供キーワードに関西ITベンダー各社の取り組みをレポートする。
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