関西ITベンダー各社の取り組み 関西ITベンダーを取り巻く事業環境は厳しい。従来のビジネスモデルでは競争力を失う恐れがある。各社は生き残りをかけて新しい取り組みを始めた。クラウドサービスや特定の業種・用途向けサービス、グローバルビジネスの展開で、持続的成長を目指す。
トップが語る成長戦略
シナジーマーケティング
市場ニーズに即応し、新製品を投入 シナジーマーケティングは、この10年間、市場ニーズに即応して新製品を投入してきた。
2005年まではメール配信「POEM」を中核としてきたが、「メール配信の反応だけではユーザーの姿がみえない。コールセンターに集まるVOC(ボイス・オブ・カスタマー)や満足度調査の結果など、社内に点在している顧客データをマージしていくニーズが生まれている」(シナジーマーケティングの谷井等社長CEO)という。
クラウド型コミュニケーションプラットフォーム「Synergy!」は、こうしたニーズに応えるものになっている。マーケティングデータを一元管理し、クロス集計やランキング集計などで顧客データを分析することができる。
2008年頃からは「ニーズがより幅広くなった。例えば、法人営業の管理、つまり見込みユーザーをどのように育成するのかが重要になった」(谷井社長)。こうしたなかで2010年10月、セールスフォース・ドットコムと業務提携。翌年2月、クラウド型マーケティングオートメーションシステム「Synergy!LEAD on Force.com」の提供を開始した。このシステムは、「Synergy!」と「Salesforce CRM」を統合するもの。クラウド基盤「Force.com」上に構築している。
「もともとは単一製品戦略だった。それほど顕在化しているニーズがあったわけではないので、特定の分野向けに製品をリリースするとマーケットを絞り込んでしまう恐れがあった」と谷井社長は振り返る。既存の戦略は、「Synergy!」に加えて「Synergy!LEAD on Force.com」を企業の業務フローに合わせて提供するなどして変化してきた。現在は、集客支援サービス「チョイモビ」なども用意し、ターゲット市場に向けた用途特化型サービスの提供に力を入れている。2013年度までには、EC事業者向けに、商品の購入者にメールマガジンを配信してリピーターになってもらう簡易的なCRMの進化版をリリースする計画だ。
消費者予測エンジンを使った新たな展開も明らかにしている。今年11月に大型商材をリリース。「Synergy!」の後継版にあたる「Synergy!360」である。すべてのユーザーの成果を統計情報として共有・解析し、マーケティングに活用する機能や過去の統計データをもとにマーケティングプランの成果を予測する機能、スケジュールと連動したオートメールやステップメールを配信できる機能などを実装する。
また、同社が保有する膨大なユーザー行動履歴データとマーケティングノウハウを有効活用することで、クライアントのマーケティング活動に貢献する「iNSIGHT BOX」のリリースを予定している。「相関分析表を作成している。例えば、当社は『ソニー』『黒い』『レンズ』などのタグと、名前や年齢などとの相関データをもっている。キーワード同士の距離感を測ることでユーザーへの最適なアプローチができる」(谷井社長)。
クラウドサービスを強力に推進することで、2013年度には売上高を65億円、営業利益を20億円、契約数を1万件に引き上げる計画だ。
京都電子計算
自治体向けにパッケージとクラウドで 京都新聞社の100%子会社である京都電子計算は、人口10万人前後の中小規模の自治体向けパッケージと大学向けパッケージの販売に強みをもっている。住民情報システム「COKAS-R/ADII」や人事給与システム「KIP SALT/ES」、大学向けERP「Campusmate-Jシリーズ」などのパッケージ揃える。自治体での共同利用型のシステムニーズに対応して、京都府と鹿児島県、熊本県の町村会の共同利用型基幹系システムや福祉系システムだけに対応している京都府向け共同利用型基幹系システムを導入している。
小崎寛社長は、「法制度改正などに伴う自治体向けシステムの改修ビジネスがメシの種になっている」と説明する。
民需事業に比べると、景気に左右されにくい事業だが、経済不況で法人税収が減ったり、少子化で大学間の競争が厳しさを増したりして、先行きは明るいとはいえない。
パッケージ販売と並行してクラウド形態でのサービスや事業継続(BCP)対策のバックアップソリューションの提供にも踏み切るなど、新しい試みに挑戦している。
一方で、受託開発は3、4年の間は増加するとみて、注力する姿勢を崩していない。小崎社長は、「長い目でみれば下り坂の傾向にあるが、これに逆らっていきたい。既存システムの改修と新規案件の獲得に取り組んでいく。新規案件は利益が出にくいが、最新の技術に対応していくためには必要だ。自治体向けシステムで最新技術を活用するケースは少ないが、民需向けではそこそこ期待できる。赤字でやる覚悟だ」と決意のほどを示す。
スリーエース
異業種コラボが重要性を増す  |
スリーエース 井上代表取締役 |
製造・会計事務などのシステム開発を得意とする京都市のスリーエース。井上太市郎代表取締役は、旧来の多重下請け構造は早晩崩壊するとみており、「エンドユーザーとの異業種コラボレーションが重要性を増す」と断言する。代表幹事を務めている「京都市ベンチャービジネスクラブ(KVBC)」で、会員企業同士の協業モデルを模索しているところだ。
KVBCは、京都市が支援しているベンチャー企業の交流組織である。「似たような境遇にある地場ベンダーを巻き込んだ官民一体の取り組みが必要だ」と井上代表取締役は訴える。
大和コンピューター
SaaSビジネスと農業を新機軸に 大和コンピューターは、SMB向け基幹系業務アプリケーションの設計・開発をはじめ、ネットワークの設計・構築、セキュリティの設計・構築を主力事業としている。大塚商会とSCSKが二大顧客だ。
2010年度(10年7月期)は、震災の影響による案件の凍結に加え、業務ソフトパッケージとSaaSビジネスの拡大に向けた研究開発への投資で売り上げが伸び悩んだ。
2010年、アパレル業向け販売管理テンプレート「ApaRevo」とSaaS型スクール管理システム「Platinum School」をリリースした。さらに、SaaS型フィットネスクラブ向け会員管理システム「CLUBNET」を開発・提供するフィットネス・コミュニケーションズを買収し、SaaSアプリのラインアップを拡充した。「CLUBNET」は、すでに160店舗を超えるフィットネスクラブに提供している。
子会社となったフィットネス・コミュニケーションズと開発手法を共有することで、さらなる事業の拡大を期す。3年以内に300店以上に提供先を増やす考えだ。フィットネス・コミュニケーションズの上田稔取締役は、「顔認証の導入や受付の無人化で業務コストを減らすほか、フィットネスクラブの一般会員が訪問しやすいアプローチを考えている」と展望を語る。
同社がSaaSビジネスに傾注する背景の一つには、受託開発の厳しさがある。ストックビジネスは、不安定な受託開発と比べて持続的に収益を上げられるメリットが大きい。中村憲司代表取締役は、受託開発は重視しつつも「受託開発とは異なる事業展開を目指している」と語る。このほか、主要取引先2社との連携強化やCMMIのプロセスモデルの導入、運用保守サービスの拡充を進める方針。農業に関連する活動も強化する。
中村代表取締役が力を込めて語るのが農業だ。静岡大学と協力してメロンの養液栽培実験を実施し、従来農法と比較してぼぼ同等の完成度で栽培に成功した。まずは生産者として農業に参入し、農業向けのソリューション提供に乗り出す構えだ。「農業はITの利活用が進んでいない。匠の技が生産活動の7割を占めているからだ。これをなんとかデータ化して、農業に生かせるようにしたい。生産者の立場で使えるITを模索していく」。中村代表取締役は農業を重視する理由をこう語る。
グローバル事業を育てる
オージス総研
2015年度に単体売上高28億円へ  |
オージス総研 細谷部長 |
オージス総研は、通華科技(大連)有限公司との合弁会社である上海欧計斯軟件有限公司を通じて、親会社である大阪ガスのシステムに関連する受託開発やガス導管や水道管などの地下埋設物を中心とする地図情報システムの管理・運営を受託する「マップメンテナンスBPOサービス」などを提供してきた。
2010年4月には、海外で事業展開する日系企業のIT支援を統括する組織「グローバルビジネス推進部」を立ち上げた。その一環で、企業向けの大容量ファイル転送サービス「宅ふぁいる便」やオープンソース違法利用防止ツール「Palamida」といったサービスの拡販に取り組んでいる。
2011年に入り、デジタル製品テストに強みをもつAWSと業務提携し、中国とフィリピン、シンガポールでのITサービスの拡充に乗り出した。システム開発をはじめ、ヘルプデスク、デジタル製品テストのサービスを多言語(英語・中国語・日本語)で対応するほか、技術者の派遣、育成なども請け負う。「ASEAN地域でワンストップで同じメニューを展開できる」(オージス総研の細谷竜一・グローバルビジネス推進部部長)。
さらに事業拡大を図るべく、製造業のグローバル案件の獲得に注力する方針を掲げる。具体的には、日系企業の海外拠点に生産管理システムや販売管理システムを導入するロールアウト案件の受注を目指す。このほか、国際金融取引を強化している金融機関や中国への進出が著しい流通業向けのサービス提供を進める。日系企業からは、「Googleマップ連携サービス『ビジネスぐる地図』の中国語版はないのか」といった問い合わせが多いという。
一連の事業展開で、2015年度に単体でグローバル案件に絡む売り上げ28億円の計上を目標に掲げる。細谷部長は、「かなり挑戦的な目標だが、全体の売上高の1割程度にしたい」と意気込んでいる。