アレン・マイナー氏が語る
ITベンチャー事情
「最初からグローバル市場で挑戦」
近年、ITベンチャーに対する投資を強化しているサンブリッジ。2011年5月、創業間もないITベンチャーを発掘してシードマネーを供給することを目的に、Innovation Weekendを開始した。同年12月、シリコンバレー&サンフランシスコ、東京、大阪の3拠点で展開しているITベンチャーの投資育成事業「Global Venture Habitat事業(GVH)」を分社化し、サンブリッジ グローバルベンチャーズを設立。日本発のグローバルITベンチャーの育成に取り組んでいる。サンブリッジのアレン・マイナー代表取締役会長兼CEOに、国内のITベンチャーを取り巻く状況や成功の秘訣などについて聞いた。
――近年、ITベンチャーへの投資にこれまで以上に積極的だ。
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サンブリッジ マイナー代表取締役 会長兼CEO |
マイナー クラウドがアーリーアダプター(初期採用者)のステージからメインステージに上がり始めている感がある。一方で、欧米のクラウド大手ベンダーはほとんど日本市場に参入していない。国内では、すでにセールスフォースやグーグルが結構伸びていて、市場もできている。国内で通用するであろうベンダーがまだ数社あって、「うちも日本市場に参入したいが、どうしたらいいのか教えてほしい」と相談されるケースが増えている。
スマートフォン、ソーシャルメディアといった観点からは、セールスフォースが数年前からクラウド+モバイルの事業に取り組んできている。企業ITは、情報システム部門主導から従業員が消費者として使ってみて便利なサービスを利用しようという気運が高まっており、スマートフォンやソーシャルメディアの活用が進んでいる。クラウドから始まり、モバイル、ソーシャルがどこに落ち着くのかはわからないが、この流れは止められない。どのように生かしていくかが重要となっている。
大きな変化が起こる時に、面白い人たちがクリエイティブなサービスをつくるし、そのなかでもすぐれたものは数年後の大きなビジネスになる。
――投資の方針は?
マイナー スタートアップに対しては、投資してほしければInnovation Weekendというイベントに参加していただく。投資の判断基準となるのは、5年、10年先に会社として成長できるのかどうかという可能性だ。
ビジネスプランだけを提示されても受け入れない。今は、いろんなクラウドプラットフォームがあって、すぐに新しいサービスをつくることができる。アイデアを思いつくのは誰にでもできる。しかし、それをかたちにできる人は限られている。経営に関しては、ある程度は経験や指導が必要かもしれないが、とにかくサービスをつくってリリースすることが大事だ。
――国内発のITベンチャーについてどのようにみているか。
マイナー 10年ほど前のスタートアップ企業は、世界ナンバーワンを目指すとかグローバルでビジネスをしたいとかを話していても、具体的にアクションに落とし込むことがなかった。まず国内でIPO(新規株式公開)して、年間利益が数十億円くらいの余裕ができたら海外進出しようか、と検討するレベルだった。
今は大きく異なっている。すべてにいえることではないが、例えば、まず英語版の製品をリリースして軌道に乗った後に日本語版をつくるWondershake。ミドクラという会社は、ネットワークの次世代を担えるほどのすごい可能性をもっている。高い技術力とすぐれた経営戦略、ITベンチャーキャピタルとのつき合い方、人材の集め方をみると、シリコンバレーで発見しても不思議ではない。早い時期から国内だけではなく、世界中から人を集め、シリコンバレーに拠点を構えていて、最初からグローバル市場で挑戦しようとしているのが、すごく斬新なスタイルだ。
理由はわからないが、10年ほど前は社長が外国人だと社員も外国人で、たまに帰国子女がみられた。反対に、社長が日本人だと英語を話せる人がまったくいないという状況があった。最近は、福岡に本社を置くモバイルデバイスマネジメントのアイキューブドシステムズが従業員の半分くらいを九州大学の留学生のなかから採用している。九州電力やJR九州よりも採用実績は多いのではないかと思う。
――グローバルで受け入れられるためには何が必要だろうか。
マイナー ずばり運だ。失敗の要因にはいくつかのパターンがあるが、成功の要因はなかなか特定できない。大きな成功を手にした人が口をそろえて言うのは「I was luckey」だ。米国の場合は失敗を評価する。なぜかというと、失敗の要因を分析して、そこから学ぶことができるからだ。
もしかしたら「偏っている」ことも重要かもしれない。オラクルは営業がアグレッシブでパワフルであることを強みにしてきた。あるいは、セールスフォースにおける創業者マーク・ベニオフの天才的なマーケティング能力、グーグルの高い技術力など、バランスが取れていないことが成功の要因の一つになっているのではないか。
いろいろなベンダーが挑戦しているなかで、これから先も失敗事例、成功事例が出てくるだろう。最近はイベントなどを通じて、ITベンチャーが抱えている課題などを話し合ってもらう機会を設けて、コミュニティで共有するようにしている。