中小企業向けクラウド市場は急成長すると期待されてきた。だが、いまだにクラウドへの理解が十分に進んでいないのが実情だ。では、どのように売ればいいのか。価格や導入のしやすさを前面に打ち出して販売活動を展開するITベンダーの取り組みを紹介する。(取材・文/信澤健太)
成功例に乏しい中小企業向けクラウド
試行錯誤を続けるITベンダー
調査会社のノークリサーチによると、2011年の国内クラウド市場規模は686億9000万円だった。ここ数年の間、中小企業にクラウド普及の余地は大きいといわれ続けてきたが、クラウドサービスをすでに活用している年商5億円以上50億円未満の企業は、14.6%にとどまる。年商5億円未満の企業では、クラウドサービスを活用している比率はわずか8%しかない。
中小企業の場合、大手企業のように厳格なセキュリティポリシーを敷いているケースはほとんど考えられないし、「やりたいことをできればよい」という経営者が少なくない。だが、「クラウドサービスの採用=コスト削減」という思い込みがまだ根強い。つまり、コスト削減効果への過剰な期待が幻滅感を招いている可能性がある。
中小企業向けクラウドサービスは、成功例に乏しい。この特集では、中小企業向けにクラウドサービス(主にSaaS)を提供しているITベンダーの挑戦ぶりを紹介する。
利用のハードルを下げて引き込む
気軽に使えて役立つことをアピール
 |
富士ゼロックス 小栗伸重 マネジャー |
富士ゼロックスは、主にSOHOや小規模事業者をターゲットとして、パブリッククラウドサービス「SkyDesk」を提供している。「SkyDesk」は、米Zohoとの提携を通じて提供するサービスで、名刺管理やE-mail統合管理、CRM(顧客管理)、チャット、スケジュール管理、連絡先管理など、10を超えるアプリケーションで構成する。小栗伸重・新規事業準備室プランニング&マーケティンググループマネジャーは、「パブリッククラウドだからデータ連携が容易。企業間、部署間のコラボレーションを推進する」と語る。
名刺管理サービスの「Cards」は、3000件まで名刺データを管理できるほか、登録メンバーで共有できる名刺データの上限を3万件に設定しているのが特徴だ。名刺をスキャンし、OCRでテキスト化した結果を確認・修正すると、登録が完了する。名刺管理で取り込んだ情報を連絡先管理にエクスポートすることで、メールの連絡先として利用できる。加えて、CRMの連絡先やリードにエクスポートすれば、問い合わせや商談の情報をCRM上で管理することが容易になる。
「SkyDesk」の全機能へのアクセスポイントとなるホーム画面の中央には、「アクティビティ」を配置している。つぶやきや自動メッセージのやり取りを通じて、組織メンバーと日々の活動情報を共有できる。「アプリケーションバー」には、アプリを集約して表示する。このほか新着メールや今週のタスクなどをリアルタイムに通知するスナップショット、組織メンバーやグループメンバーの連絡先を一覧表示する「メンバー」を配置している。

「SkyDesk」のホーム画面。中央に「アクティビティ」を配置している
アプリケーションのほとんどはZohoからのOEMだが、「アクティビティ」や「アプリケーションバー」「Cards」は富士ゼロックスが独自開発したものだ。Zohoのアプリの使い勝手のよさと富士ゼロックスが中小企業を意識して開発したアプリを組み合わせて、「SkyDesk」を提供している。
小栗マネジャーは、中小企業が抱えている課題をこう分析する。(1)名刺管理と顧客管理に困っている、(2)既存のパブリッククラウドサービスは料金が高い、(3)既存システムが老朽化しているが、対応できる担当者がいない──。大企業の場合、ムダな業務を洗い出すことなどによってコスト削減効果が見込めるが、「中小企業は、むしろ自分たちの業務に貢献するかどうかでみている」(小栗マネジャー)ことを踏まえ、「SkyDesk」をこうした課題解決に直結するサービスとしてアピールする。
ただ、大企業/大規模組織からの引き合いは思いのほか多いという。例えば、大学の研究室とNPO(民間非営利団体)の協業場面で利用されているケースがあるそうだ。
利用するには、企業の担当者が「SkyDesk」を紹介するウェブ画面上で、アカウント登録をするだけ。基本プランは無料なので「とりあえず社内で展開してみる」というトライアルが可能だ。より使い込みたい場合は、機能を拡張した有料プランに移行することになる。
[次のページ]