クラウドを普及させる売り手を開拓
中小企業の身近な存在を活用
日本ユニシスが2010年に立ち上げた製造業支援SaaS普及協会は、主に中小企業を対象にSaaSの普及を目指す組織で、ミキ情報システムや日揮情報システムなど10社ほどの中堅・中小規模の企業が会員となっている。
協会は、中小企業に対して、クラウドサービスに対する問い合わせ・相談窓口となるほか、ITの利活用に関する無料診断や有償のITコンサルティングサービスを提供する。一方で、会員企業に対しては、セミナーなどのプロモーションの企画・運営支援や入会の問い合わせなどに応じる。
山本隆典・U-Cloud事業部事業企画部ビジネス企画プロジェクトマネージャーは、「クラウドサービスが世の中に氾濫しており、中小企業には目利きが求められている。製造業支援SaaS普及協会は、製造業向けに目利きされたソリューションを案内している」と話す。
活動に際しては、「なるべくエンドユーザーに近づくために」(山本マネージャー)、商工会議所やITコーディネータ協会といった各地域に散在する中小企業の支援機関をはじめ、地方銀行や信用金庫などの金融機関との連携を重要視しているという。共同でセミナーなどのイベントを企画・運営することで中小企業の参加を促し、クラウドサービスの導入効果やメリットを中小企業にアピールする。
2年間で開催したセミナーは26回を数える。山本マネージャーは、「クラウドと銘打ったセミナーではなかなか人が集まらない。経営課題の解決ツールとしての提案が重要だ。勉強会と組み合わせてセミナーを開催するなど、新しい試みを行っている」と説明する。
中小企業の身近な存在を通じてクラウドの普及を図るITベンダーとして、注目に値するのは弥生だ。
弥生が提供するのは、「Microsoft Windows Azure」を採用したクラウドサービス「弥生オンライン」シリーズだ。その第一弾として、BtoCビジネスを手がける店舗経営者向けに「やよいの店舗経営オンライン」を提供する。サービスのコンセプトは、日報代わりに入力するだけで自動的に仕訳できる“半自計化”だ。まだ業務ソフトを利用していない潜在市場を掘り起こす狙いがある。
サービスは、弥生の会計事務所向けパートナープログラム「弥生PAP(Professional Advisor Program)」の会員経由で提供する。弥生PAP会員は全国4500事務所だが、まずは年内に400事務所程度に扱ってもらう考えだ。
多くの中小企業は、日々の入出金を記録して、翌月初めにまとめた資料を会計事務所に“丸投げ”している。そのため、日々の記録は店舗の管理に生かすことはできていないし、会計事務所から報告書が送られてくる頃には、経営判断が手遅れになる恐れもある。一方で、会計事務所にとっては、月初に届く資料をまとめて入力し、作成した月次試算表を顧問先に送付する作業が負担になっており、付加価値の高い経営アドバイスができない状況に陥ってしまう。
“丸投げ”状態の店舗経営者の意識を変えることは容易ではないと想像できる。だが、経営に最も近いアドバイザー的存在である会計事務所は、「弥生オンライン」の利用を通じて経営の改善を促しやすい立場にある。弥生はそこを狙っているのだ。
マーケットプレースに呼び込む
導線と課金・申請の基盤を構築
日立システムズの「MINO NARUKI」は、オープンクラウドマーケットプレースを謳う仕組みだ。7月時点で、参画しているパートナー企業と自社のサービスを合わせて88商材が揃う。企業は、使いたいと思うサービスを選択し、ウェブ経由で購入できる。
主なターゲット層として捉えているのは、従業員20~30人規模の中小企業だ。堀口真・営業推進本部担当部長は、「ユーザー企業数は200社強。数ある商材のなかでも、業種共通型よりも特化型のほうがウェブ経由では人気を得やすい傾向がある」と話す。例えば、介護・福祉事業者向け業務管理システム「介護ASP」や建築事業者向けの「使える建築見積」「使える設備見積」などである。
ウェブ経由での販売しか手がけないので、動画によるサービス説明や無料トライアル、適合性診断サービスを通じて、利用しやすい環境づくりを心がけている。個別受注型生産管理システム「TENSUITE S」に関しては、「生産管理の割合は?」「MRP(資材所要量計画)は必須の要件ですか?」「製品製造に必要とする部品点数は?」など、10程度の質問を用意し、アプリケーションの適合度を診断する。
パートナー企業は、申し込みや料金管理の機能を利用できるほか、日立システムズのクラウド基盤を活用してサービス提供に乗り出すことが可能となっている。
利用料金の回収は、日立システムズが仲介するだけの方法か、課金・請求も代行する方法かを選ぶことができる。「現在は仲介のケースが多いが、今後は、事業を開始する時は課金・請求の代行まで任せてもらい、安定してきたら自社での作業に切り替えるようなケースが出てくるのではないか」と堀口担当部長はみている。
実行基盤も用意しているが、パートナー企業はサービスの提供にあたって、独自に所有する基盤を活用している。日立システムズとしては、パートナー企業向けの管理ポータル、実行基盤、日立ソリューションによる24時間365日のサポートを強みとして、パートナー企業に訴えていく考えだ。
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