●グローバルハイブリッド もう一つキーワードになるのが“グローバルでの対応力”である。ユーザー企業が自ら運営する電算室から、SIerが運営する最新鋭のDCへ情報システムを移管したとしても、この対応範囲が国内だけに限られていては魅力が半減してしまう。国内市場の成熟につれて、ユーザー企業の多くは中国・ASEANをはじめとするアジア成長市場への進出を加速させている。しかし、アジア地域はネットワーク周りの制約や規制も多く、いくら距離が近いからといっても、日本のDCをそのまま流用するわけにはいかない。
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JBグループ 石黒和義 中国法人総裁 |
日本IBMのトップソリューションプロバイダであるJBCCホールディングス(JBグループ)は、IBMの「AS/400」や「iSeries」といった歴代のアーキテクチャを受け継ぐ「IBM Power Systems」の環境をクラウド上で実現する「JBクラウドサービス for IBM i」を手がけているが、今年9月から中国・大連でDCを確保して同様のサービスを始める。
JBグループは、他社のように自ら大規模なDCを建設したり、大がかりなミドルウェアを自前で開発したりすることは少ないものの、IBMプラットフォームを徹底して極めることで、特色のあるクラウド型サービスプラットフォームを構築している。「JBクラウドサービス for IBM i」はこの代表例で、これまでIBMアーキテクチャのサーバーを自社内の電算室に設置していたユーザーからの関心は高い。中国では、同じくIBMユーザーを対象に、中国IBMからの協力を得ながら、JBグループのビジネスパートナーである中国有力SIerの大連百易軟件との協業によってクラウド型サービスを開始する。
大連は情報サービス産業が盛んであることから、「Power Systems」の開発環境をクラウド上で貸し出したり、一般の業務システム用途でも日系ユーザー企業や中国東北地区の地場ユーザーの需要を取り組んでいく。また、すでに大連に展開している遠隔システム監視サービス「SMAC」を、クラウドサービスを提供する拠点となるDCへと統合し、サービスレベルを一段と高める作業も進める。早い段階で、IBMが打ち出した新アーキテクチャの「PureSystems」の検証サービスなどの展開も視野に入れる。中国法人の事業を統括する石黒和義・JBグループ中国法人総裁は、「基盤サービスだけでなく、JBグループや中国のビジネスパートナーがもつ業務アプリケーションもサービスラインアップに加えていく」として、日中間でシームレスなサービス基盤の整備に意欲を示す。こうした取り組みによって、大連でのクラウドサービスは向こう5年間で100システムの受注を目指す。
●アライアンスも活発化へ  |
ニフティ 三竹兼司社長 |
ITホールディングスグループのTISは、クラウド型サービスプラットフォームの「T.E.O.S.」を、中国・天津で地場ビジネスパートナーと共同で運営するクラウドサービス「飛翔雲」に今年7月から一部を適用するなど、JBグループよりもひと足早くサービスプラットフォームのグローバル化を進める。ASEAN地域ではまだ自社DC基盤を整備しきれていないこともあり、AWSなどと連携することでサービスを提供する。国境を越えてさまざまなクラウドサービスと連携することでサービス提供地域を拡大するとともに、ユーザーからみてあたかも単一のクラウドサービスかのように統合管理していくことで、「使い勝手の向上に取り組む」(T.E.O.S.を担当する内藤稔・プラットフォームサービス推進部主査)という考えを示す。
アジア進出という点では、インターネットサービスプロバイダ(ISP)大手のニフティも、官民ファンドの産業革新機構と合弁会社を今年5月に立ち上げ、ニフティが運営するクラウドサービス「ニフティクラウド」を活用して、主にマレーシアやインドネシアなどのASEAN地域でのビジネス展開を進める。中堅・中小のSIerにとってDCやクラウド基盤への先行投資の負担は重い。そこで、ニフティやAWSなど業務アプリケーション領域で競合しないサービスプラットフォームと組むのも有力な選択肢となる。国内はもとより、ましてや海外でユーザーの基幹業務システムの運用に耐えうるサービスを提供しなければならない局面において、ニフティの三竹兼司社長は「SIerと当社のようなサービスプラットフォームベンダーとの協業するケースはさらに増える可能性が高い」とみる。
記者の眼
出揃ったプレーヤー
これからが本当の勝負 クラウド型サービスプラットフォーム戦略は、まだ緒に就いたばかりである。主要SIerは特色のあるサービス基盤が出揃った段階に過ぎず、シェア拡大は今後の大きな課題となる。国内SIer最大手で世界情報サービス業のトップグループ入りを目指すNTTデータは、クラウド型サービスプラットフォーム基盤として「BizXaaS」など多数のミドルウェア群を取り揃えてきた。同社の岩本敏男社長は、「国内での知名度は高いが、では欧米アジア成長市場で十分なシェアが獲れているかといえば、まだこれから」と実情を話す。いくらハイブリッド型のクラウドだとはいえ、ある程度の規模感がなければコスト競争力を打ち出しにくい。ユーザーが増え、サービス提供が可能な国や地域を順次増やしていくことで、グローバル市場で列強に対抗できるだけの競争力を、いかに早く身につけられるかが問われている。