市場に不透明感が漂い、ユーザー企業がIT投資に慎重な姿勢を示している。それだけに、ITベンダーには成長が期待できるビジネスを見定めて、そこに資金やマンパワーを投入していくことが求められる。例えば、クラウドを中心としたサービスの導入が急速に拡大していくのか、ハードウェアやソフトウェアを組み合わせたインテグレーションという従来モデルが再び脚光を浴びる可能性はあるのか──。編集部が、成長が見込まれるビジネスを独自に選定して、今後5年の動きを予測した。(取材・文/木村剛士、佐相彰彦、ゼンフ ミシャ、信澤健太、安藤章司)
【市場環境】
慎重なユーザー企業のIT投資
5年後を見据えなければ生き残れない
電力供給不足や円高、欧米経済の不振などが影響して、2012年に入っても国内経済の先行きは不透明なまま。企業の業績も足踏み状態が続いており、IT関連システム・サービスへの支出にためらいがみられる。とくに、小規模な企業ほどIT支出を抑制する動きが顕著に現れている。
調査会社のIDC Japanによれば、2012年の企業規模別IT支出額は、従業員1~99人の企業が前年比1.4%減の1兆1491億円、100~499人の企業が0.5%減の1兆5663億円の見込みという。その一方で、500~999人の企業は0.5%増の8533億円、1000人以上の企業は1.7%増の6兆720億円と、増加に転じている。
つまり、中堅・中小企業(SMB)向けにビジネスを手がけるITベンダーは、厳しい状況にあるということだ。
そのような状況にあって、「近い将来が読めない」と嘆くITベンダーが少なくない。そこで、成長が期待できる製品・サービスを本紙編集部でピックアップして、今後5年という比較的短い期間にどのような動きをするかを予測した。俎上に乗せたのは、(1)市場が拡大を続けて、中小企業を中心に新規需要を掘り起こすことができそうな「仮想化」、(2)ネットワークインテグレータ(NIer)が生き残るための策として展開する「クラウド対応ネットワークサービス」、(3)人事管理システムの新形態として注目を集めている「タレントマネジメントシステム」、(4)コミュニケーションを切り口としてユーザー企業が成長するための重要なシステムに変貌した「ビデオ会議システム」──の四つのジャンルである。
また、製品・サービスだけでなく、「期待できる市場」も取り上げた。一つは、厳しい状況が続く国内市場にあって、伸びる可能性がある「公共分野」。もう一つは、成長著しいアジアを舞台とする「グローバルビジネス」である。
国内IT市場の企業規模別前年比成長率の予測
【成長ビジネス(1) 仮想化】
20%水準の成長を持続 端末の仮想化が主流に
今、ユーザー企業の間で関心が高まっているのが、情報システムの「仮想化」だ。仮想化ソフトの需要は現時点でも伸び盛りだが、中期的にみても高い伸びが見込める。調査会社のIDC Japanは、バーチャルマシン(仮想化)ソフト市場の年平均成長率(CAGR)を2011~16年で17.5%と予測し、16年には市場規模が627億円に達するとみている。2011年の前年比成長率は43.0%増と急激に伸びたこともあって、12年以降の伸び率は鈍化しそうだが、このご時世にあって20%近く成長し続ける分野は珍しい。
仮想化ソフトのなかでも高い伸びが期待できるのが、「デスクトップバーチャライゼーション」と称する端末の仮想化だ。2011~16年のCAGRは31.2%とかなり高い。仮想化は、サーバーから始まり、ストレージやネットワークと続いた。そして、現在は端末にまで広がってきており、今後は端末の仮想化が最も高い成長が見込めるというわけだ。
日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は、新サーバーOS「Windows Server 2012」を拡販する有力な製品・サービスとして、端末からOS環境を分離してサーバー上の仮想環境に集約する「バーチャル・デスクトップ・インフラストラクチャ(VDI)」を挙げている。日本HPのプリセールス本部の小川大地・サーバー技術本部ITスペシャリストは、「端末の仮想化需要が非常に高い。VDIを実現するためのインフラとして、当社のサーバーソリューションが効果的であることを打ち出す」との方針を示している。
サーバーから始まった仮想化環境構築の動きは、今後も止まりそうにない。低迷する国内IT産業のなかで気を吐く仮想化は、この先5年も有望なビジネスになりそうだ。
国内仮想化ソフトウェアの市場規模予測

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