●求められるリスク対応力 
野村総合研究所(NRI)
嶋本正社長 懸念されるのは(2)と(3)の日系企業の業績悪化や地場向けのビジネスであるが、これについても「日中間の政治摩擦は従来からあるもので、今回、たまたまこのタイミングで表面化したに過ぎない」(NRIの嶋本社長)として、既知のリスクであり、ビジネスにとっては側面的な要素だと分析する。日系企業の商品やサービスの競争力を保つという正面的な要素が決定的に損なわれたわけではなく、摩擦が落ち着いてくれば、関係が回復する可能性は十分にあるとみる。
天津に最新鋭の大型データセンター(DC)を置き、北京や大連、上海、西安、武漢など主要都市に拠点を展開するITホールディングスの前西規夫副社長は、上半期の決算説明会の場で「中国事業に関する中期経営計画に変更はなく、今後のことをどうこう語るフェーズに至っていない」といい、冷静に見極めていく姿勢に変わりはないと改めて言明。大連にクラウドサービスセンターを開設し、この11月から「JBクラウド」サービスを中国で本格的に立ち上げたJBCCホールディングスの山田隆司社長は、「中国事業が損益分岐点を越える時期が多少先送りになる懸念はあるものの、中国に関するビジネスで一歩たりとも後退することは考えていない」と、厳しい現実を承知のうえでビジネスを展開していく構えだ。

ITホールディングス
前西規夫副社長 NTTデータは海外売上高比率を昨年度の16.7%から2016年3月期には約25%へ高める目標を掲げている。NTTデータの海外事業の主戦場となっている欧米主要市場でのシェア拡大を目指すとともに、今はまだ限られている中国地場ビジネスの拡大、さらにはASEAN/インドなど新興国でのビジネス開拓を柱に据える。中国だけに限らず、新興国は政治・経済の両面で発展途上にあり、成長段階特有のリスクが常に存在する。海外進出する日系SIerの多くは中国やASEAN、インドといった成長市場に軸足を置いていることから、今後、こうした成長市場でのリスク対処能力、事業継続能力を高めていくことが欠かせない。
●依然として人気が高い日本製品 NRIの嶋本社長は、「日中の政治摩擦は既知のリスクであり、ビジネスにとっては側面的な要素だ」と捉えて、日系企業の商品やサービスの競争力を保つという正面的な要素が決定的に損なわれたわけではないと指摘している。その「正面的な要素」について分析してみよう。

JBCCホールディングス
山田隆司社長 コンサルティング会社のアウンコンサルティングが、今年10月下旬から11月上旬にかけて、アジア主要国・地域で意識調査を行ったところ、反日感情が高まっている時期にもかかわらず、中国で日本の商品・サービスを「大好き」「好き」と回答した割合が100人中82人に達した(図4参照)。韓国を除き、台湾や香港、ASEAN主要国においても、軒並み中国以上の高い好感度を抱いている。日本の製品やサービスに対する期待度の高さの現れでもあり、このことには自信をもってビジネスを展開していくべきだ。同じ調査で「日本という国が好きですか」という質問に対して、中国は100人中55人が「大好き」「好き」と回答。この割合は、同じ政治的価値観を共有する韓国よりも実は高い。日中の政治摩擦が続くなかでも、中国の一般市民の反日感情が収まりつつある可能性はありそうだ。また、韓国を除き、アジア主要国・地域で8割方が日本の商品・サービスに対して「大好き」「好き」と高い好感度を抱いており、アジア成長市場が依然として、日本製品やサービスを受け入れる土壌があることを示しているといえる。
振り返って国内市場をみると、クラウド化の進展によるDC活用型のビジネスが活発化していたり、普及期に入っているスマートフォン向けの通信基地局への投資が好調であったり、金融や医療などの特定分野で需要が拡大したりすることが期待できる。だが、ガートナージャパンなどが予測する通り、年率の成長幅は2%程度で、まとまった規模でシステムを構築する大型案件は散発的、断続的といわざるを得ない。国内の優良案件の受注を手堅くこなしつつも、内向きになるのではなく、海外の成長市場へ果敢に挑戦する姿勢がITベンダーに求められている。