海外実績に残る課題
変化への適応を成長につなげる

シーエーシー(CAC)
酒匂明彦社長 2012年を総括するうえで、まだ及第点とはいえない領域がグローバル対応である。中国リスクの顕在化に象徴されるように、海外のビジネス環境は常に変化している。海外情勢の変化に適応し、ユーザー企業の経営をITの側面からリードできるようになったとは、残念ながらまだ言い難い状況だ。海外市場、とりわけアジア成長市場の重要性の認識や拠点整備は、大手SIerを中心にある程度は進んだものの、ビジネス的に成功に結びつけるという課題は、今後、クリアしていかなければならない。
●開発体制の刷新が急務 グローバルデリバリセンターの構築に取り組むシーエーシー(CAC)の酒匂明彦社長は、「日本のユーザー企業だけに限ってみれば、海外におけるIT投資の比率は今後増えることはあっても減ることはない」とみている。国内市場が成熟するのに伴い、海外売上高の比率を高めようと目論んでいるユーザー企業であれば、なおさらだ。酒匂社長は、「業者選定の条件にグローバルサポートを入れたり、RFP(提案依頼書)を英語で出してほしいというユーザーの要望は着実に多くなっている」と、市場環境の変化を肌で感じている。
調査会社のアイ・ティ・アール(ITR)による国内IT投資動向調査によれば、国内企業が、海外拠点の設置を準備あるいは検討している比率は全体の10%程度という結果が出た(図3参照)。すでに海外拠点を設置済みと回答している国内企業も全体の36.9%に達しており、売上比率の大きい国・地域にIT予算が重点的に配分される傾向があることもわかった。ITRは、「グローバル化の進展に伴い、IT予算の投下先が国外へとシフトする」と予測している。
情報サービス業界は、1980年代に邦銀の海外進出に歩調を合わせてニューヨークやロンドンといった金融都市へ進出した経験がある。当時はソフトウェアがまだ高価なもので、かつ円相場が1ドル150円前後で推移していたこともあり、海外で受注して国内で開発することも可能だった。だが、世界の最も適した場所で開発、生産を行うグローバルサプライチェーン体制が主流となった現在では、「80年代のやり方は、もはや円相場に関係なく、通用しなくなっている」(CACの酒匂社長)と指摘する。
●中国系の再編が進む つまり、単純に海外で営業所を設けて、日系ユーザー企業の情報システムをサポートする80年代型のビジネスではなく、競争力ある価格帯で開発が可能な中国やインドなどオフショア開発拠点を整備していくことが現代のグローバルビジネスでは求められているというわけだ。CACの主要顧客の1セグメントである医薬製造業のなかには、海外売上高比率が高いユーザーが多く、ITシステムの発注責任者が海外にいるケースも少なくない。こうなるとライバルは中国やインドを活用したグローバルデリバリーモデルを構築している欧米SIerとなってくるわけで、CACでは海外ライバルSIerとの競争力を意識した中国やインドにおける開発体制の整備を急ピッチで進める。
中国のSIerをみても、今年11月、日本の情報サービス業界とも深い関係にある大連の地場有力SIerの海輝軟件(ハイソフト)は、同じく中国有力SIerの文思信息技術と経営統合して、文思海輝技術を設立した。中国を戦略的拠点として、北米とアジア・太平洋、欧州にそれぞれ地域本部を置くグローバルサービスプロバイダへのシフトを急ぐ。7月には中国と深い関係にあるSJIが、中国北京に本社を置く日系SIerとの関係も密接な中訊軟件(サイノコム)をグループ化するといった再編も進めている。電機電子業界がそうであったように、規模拡大で開発力が倍増した中国ベンダーが、近い将来にグローバル市場において日系ベンダーを追い上げてくる可能性も十分に考えられる。
2012年、国内DC設備への投資や、クラウド/SaaS方式によるサービス型ビジネスへの対応は、大手SIerを中心に一定の成果を収めることができた。だが、DTSの西田公一社長が指摘する「国内シェアの拡大とM&A、グローバル展開」という側面では、一部、トップグループに属するSIerを除いて、依然として課題を積み残したままである。
日本の情報サービス業が、世界で存在感を高めていくには、2013年以降、さらにグローバル市場を見据えたシェア拡大と技術革新が不可欠といえそうだ。
7割前後が増収で推移
主要SIer50社、回復鮮明
本紙編集部がまとめた主要SIer50社の直近の上半期業績を俯瞰すると、前年同期比と比較可能な範囲で全体の7割近くが増収/営業増益となった。情報サービス業界の業績は下期に片寄る傾向があることから、通期業績予想でみると50社中47社が増収、40社余りが営業増益を見込むなど、通期では業績回復がより鮮明になる見通しだ。リーマン・ショック後の大幅な落ち込み、東日本大震災で回復が一時足踏み状態であった時期に比べれば、市況が好転していることを強く印象づけている。
銀行や保険、証券をはじめとする金融分野や、携帯電話通信キャリアを中心とする情報通信分野での大型投資が相次いでおり、とりわけ元請け(プライム)で受注できる体力のある大手SIerの業績回復が際立つ。
情報通信の基盤システム構築に強い伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の2012年度(13年3月期)連結売上高見込みは3150億円と4期ぶりに3000億円台に回復する見通しだ。スマートフォン普及による通信量の増加に対応するために、「携帯キャリアの設備投資が急拡大している」(CTCの菊地哲社長)ことが業績を押し上げる要因になった。
金融分野では、野村證券が野村総合研究所(NRI)の共同利用型基幹業務システム活用に移行したり、今後はみずほフィナンシャルグループの基幹業務システム刷新への投資拡大が見込めるなど、活気づいている。