●オフショアで人材育成 アジア成長市場へのアプローチについて、日立ソリューションズの丸岡祥二・グローバルビジネス推進本部担当本部長は、「五つのアプローチ法」を掲げる。中国の北京や上海、広州、嘉興など、2011年10月以降、矢継ぎ早に海外拠点を展開してきた同社の経験に基づくもので、形のある製品ではなく、情報サービスをビジネスの主体とするSIerが、海外の有力市場へ接近するためのアプローチ法を考察したものだ。
その一つはオフショアアプローチで、中国市場はまさにこれが奏効した例だ。調査会社のガートナージャパンの調べによれば、日本向けオフショア開発に従事した経験のある中国のSE(システムエンジニア)は、大連に約7万人、北京に約4万人、上海に約3万人がいる。中国での日系SIerの最大のアドバンテージは、ここ20年の時間をかけて育成してきた日本式のシステム構築や、日本語に触れた経験をもつ厚いSE人材層を抱えている点にある。
だが、ASEANで中国同様のオフショア人材を育成するには時間がかかる。一から育成しようとすれば、「5~10年の期間は必要」(野村総合研究所の嶋本正社長)とみられ、ASEANの経済成長の速度を考えると選択肢は狭まる。5年、10年先を考えるとマレーシアやタイはすでにコスト面でペイしなくなる可能性が高く、1人あたりの名目GDPでインドネシアの半分に及ばないベトナムや、さらに少ないミャンマーが有力視されている。ベトナムでは地場の大手ソフト開発ベンダーのFPTソフトウェアと日系有力SIerの連携が緊密化するとともに、ミャンマーは情報サービス産業協会(JISA)などが先導するかたちで可能性を探っている段階だ。
二つ目は、既存日系顧客とともに進出する手法。三つ目は親会社グループ会社のITサポート拠点からスタートするアプローチだ。独立系SIerでも、ユーザー企業の情報システム子会社をM&A(企業の合併と買収)し、グループ傘下に収めたケースなどで活用できる。キヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)グループは2012年末までにバンコクとフィリピンに拠点を開設しているが、キヤノンMJアイティグループホールディングスの浅田和則社長は、「ASEANでは、まずグループ連携から立ち上げる」と、キヤノンの設計・製造拠点向けのITサービスを足がかりにしてビジネスの拡大を図る。
●足場づくりに工夫 
KCCS
松木憲一常務 四つ目はM&Aで、五つ目は業務アプリケーションなどのソフト・サービス製品を切り口としたアプローチである。このうち、M&Aのアプローチを積極的に展開した例としてNTTデータがある。直近で中国・ASEANなどを含むアジア・太平洋地域(APAC)で35都市、約1万3800人を擁してビジネスを展開しており、国内情報サービス業のなかではずば抜けた規模の拠点網を展開するに至った。業務アプリケーションを切り口にしたアプローチでは、例えば日立ソリューションズは日立製作所グループから2012年4月に譲り受けたERP「Microsoft Dynamics」事業の世界展開を進めており、この一環で「ASEANでもDynamicsを展開する選択肢もある」(丸岡担当本部長)との考えを示す。
京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は、今年1月、ERP大手のインフォアジャパンおよびKDDIシンガポールと協業して、ASEAN地域でインフォアの製造業向けSaaS型ERPサービスを販売すると発表した。それとともに、昨年11月にグループ化したIT資産管理ソフト開発の「エムオーテックス製品のグローバル展開も視野に入れる」(松木憲一常務)と、製品やサービスを切り口とした海外展開に意欲を示す。
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