【グッドツリー】
介護施設向けITに力を注ぐ

グッドツリー
西原翼社長 グッドツリーの西原翼社長は、大震災で受けたダメージを目の当たりにして、ある決断をした。これまでソフトウェアの受託開発を手がけてきた自社のビジネスを独自のクラウドサービス展開に切り替えることに挑んだのだ。宮城県が用意する助成金制度を活用し、介護施設でiPadを使って利用者の情報を管理するクラウド型ツールである「ケア樹」を開発した。
「ビジネスモデルを再構築するには、相当な勇気が必要だった」と、西原社長は当時の心境を振り返る。しかし、震災を経て受託開発の需要はさらに減ることを先読みし、いち早く舵を切らなければビジネスを維持することができないと判断。県の助成金を研究開発に使い、2012年9月に「ケア樹」の発売にこぎ着けた。
西原社長は、「ケア樹」を導入している宮城県黒川郡の特別養護老人ホーム「ウィング」で撮影したプロモーションビデオを誇らしげに記者に見せてくれた。「介護施設向けサービスで『ケア樹』は後発だが、機能を極端にシンプルにつくっているので、使いやすさが高い評価をいただいている」と自慢する。導入件数はまだ施設2か所と少なく、本格展開はこれからだ。今年中に販売網を築き、全国展開に取り組んでいく。
●「スマートシニア」に着眼 グッドツリーは現在、直接販売で「ケア樹」を展開している。サポートも自社で行い、客先のニーズを吸収して製品の改善に生かしている。しかし、14人体制の自社のリソースだけでは、全国展開はできない。そんな状況にあって、西原社長は、販売パートナーの獲得に動いている。福祉用具や医療機器の販社に「ケア樹」を提案してもらうほか、全国の販売網をもつプリンタメーカーの販社との提携も視野に入れているという。
「新規事業の開始にあたって、パートナーシップがカギを握る」。西原社長は、宮城県や仙台市によるサポートを受けて、中国での開発リソースやアマゾンのクラウド基盤を活用。これから、販売パートナーとも提携する。あらゆる方面から力を借りているからこそ、この2年で「ケア樹」事業を立ち上げることができた。
「ケア樹」の展開と関連して着眼しているのは「スマートシニア」、すなわちモバイル端末の活用に精通する高齢者だ。「介護施設の利用者は、からだは不自由だが、スマートフォンを使って家族や友達と交流がしたい人が多い」と西原社長。彼らのニーズに対応するために、グッドツリーは、法人向けアプリケーション開発に加え、消費者向けのサービス展開にも取り組む。
【イートス】
「BEMSアグリゲータ」に認定

イートス
増子良一代表取締役 震災を経て、東北地区で喫緊の課題として浮かんできたのは、エネルギー使用の効率化だ。工場や店舗で電力を自動制御し、節電につながるシステムを展開するイートスでは、この1年間、国の省エネ促進施策は、事業拡大の追い風になっている。
イートスは、ソフトウェア開発を主軸にビジネスを展開している。数年前から、ハードとソフトを組み合わせたデマンド自動制御・自動負荷遮断システム「eco vigilo(エコビジロ)」を提供。仙台市の麺類メーカーである千鳥屋製麺所など、工場の温度を上げるわけにはいかない食品加工事業者を中心に納入してきた。
同社は2012年4月、国が認定する「BEMSアグリゲータ」に選定された。国は、震災による全国各地の電力供給不足を受け、ビル向けエネルギー管理システム(BEMS)の導入を促すために、300億円の予算を用意して、ユーザー企業の導入コストの一部をカバーする支援プログラムを立ち上げた。そして、「eco vigilo」を評価し、東北地区でわずか2社のうちの1社として、イートスをこのプログラムの対象ベンダーに選んだ。
●DC事業者にも提案 イートスの増子良一代表取締役は、「『BEMSアグリゲータ』になったおかげで、『eco vigilo』が急速に伸びた」と、国の対策に感謝している。従来の食品加工事業者に加え、最近は、カラオケ店やスーパーマーケットでも「eco vigilo」の採用が進んでいるという。そのほか、「データセンター(DC)への納入も決まった」(増子代表)そうだ。イートスは、電気料金の値上げで節電を重視するようになったDC事業者も、「eco vigilo」の重点ターゲットに据えて提案を強化していく。
国の補助金制度は2014年3月31日で終了する。「今年1年が勝負」と増子代表は意気込む。「eco vigilo」の現在の売上比率の30%を、今年度(13年9月期)に50%に引き上げることを目標に掲げている。
しかし、決して国の補助金に依存するビジネス展開は目指していないと強調する。「現時点で直接バッティングするライバル製品はないので、補助金があってもなくても『eco vigilo』は需要が高い。14年3月以降も事業拡大に注力したい」と自信をみせる。
震災後にUターンした若手エンジニア
高いスキルで東北ITを支援
セキュリティ事業を展開するトライポッドワークス。全国で営業活動をしているが、開発拠点として本社は仙台に置いている。佐々木賢一社長は、東京のIT企業で経験を積み、東北に戻って地元で就職する「Uターン」の人材を積極的に採用している。震災後に東北へのUターンを決め、トライポッドワークスに入社した二人にたずねた。
●ソリューション開発本部 セキュリティ製品統括部 セキュリティスペシャリスト
阿部直樹さん
・青森県出身、2011年11月に入社
・横浜の家具メーカーのIT部門で技術者として勤務した
横浜にある家具メーカーのシステム部門で、メインフレームで使ってきた業務アプリケーションをウェブに切り替える仕事を担当していた。東日本大震災で友人が亡くなり、震災後は仕事のかたわら、被災地でのボランティア活動に参加した。津波によって大きな被害を受けた陸前高田での状況を見て、「何かをしたい」と強く思うようになった。
ボランティア活動を通じて、トライポッドワークスの佐々木社長に出会い、自分のバックグラウンドを話したら「うちで働かないか」との誘いを受けた。横浜での仕事にはとくに不満もなく、一瞬迷ったのだが、復興に貢献したい思いが強く、転職を決めた。現在は、セキュリティ製品のサポートに携わっており、新機種のテストを行ったり、電話やメールでお客様とやりとりをしている。
被災地でボランティアを務めて肌で感じたのは、東北ではITに強い人が求められているということだ。震災後、迅速な情報交換に最適なスマートフォンをもつ人が増えた。しかし、使い方がよくわからず、満足に活用できない人も多いという印象を受けている。被災地で子どもやお年寄りにスマートフォンの使い方を教えた。みなIT活用に熱心だ。ぜひ、IT専門家に東北に戻ってもらい、一緒に活動したいと思う。
先日、ボランティアの一環として、南三陸の仮設商店街でWi-Fiスポットを設置した。Facebookなどのソーシャルメディアで地元の人が情報を発信し、より多くの人に商店街に来てもらう仕組みをつくった。これを一つの成功事例として、私はITのスペシャリストとして今後も復興支援に力を入れたい。
●研究開発本部 先端技術開発部 プロダクトエンジニア
片桐寛さん
・山形県出身、2012年5月に入社
・東京の半導体メーカーでサポートに携わった
転職することを考えたのは、震災の前からだった。東京の半導体メーカーでサポートを担当していたが、自分でIT製品をつくる側に回りたいと思った。しかし、不況が続くなか、自分が求めるような転職先がなかなか見つからなかった。
山形県の実家は、果物の栽培を生業としている。私は震災直後、実家でつくったリンゴを家を失った人々に届けに、何回も被災地を訪れた。被害状況を自分の目で見て、東北で転職先を探し、地元の活性化に貢献することを決心した。インターネットで東北地区のIT企業を紹介するサイトに登録した。けれども、下請け事業者への派遣といった仕事しか紹介してもらえなかった。そこで、自分でIT企業をリストアップし、1社1社のホームページを調べることにした。

阿部直樹さん(左)と片桐寛さん。スマートデバイスの活用で復興を支援する トライポッドワークスは、Uターンの技術者を積極的に採用することをホームページでアナウンスしている。私はそういう、Uターンがしたい人を受け入れる体制が整っていることに安心し、応募した。採用してもらい、現在は、大学向けの開発案件を担当させてもらっている。ずっとしたいと思った開発の仕事ができるようになった。
東北に戻っておよそ1年が経った。仙台で仕事をして実感したのは、地方でも東京と同じ品質でITサービスをつくることができるということだ。東北に戻りたいが、就職情報が探しにくいのであきらめてしまう人が多いのではないか。IT企業に「受け入れる体制」をつくり、東北へのUターンをもっとサポートしてもらいたい。