日系ITベンダーのオフショア開発の発注先は、これまでの主力だった中国に加えて、近年では人件費の安いインドや東南アジア諸国にも向かっている。その筆頭が、ベトナムだ。人件費の安さに加えて、地理的なアクセスのよさや、国民の勤勉な気質などが日本人に近いことから、オフショア開発のニューフロンティアとして最も注目されている。とはいえ、グローバルの各国でオフショア開発を手がける大手ITベンダーと、海外に多くの開発拠点をもたないSMB(中堅・中小企業)ベンダーでは、その主たる使い方が異なるようだ。その活用法の実際を取材した。(取材・文/真鍋武)
ベトナムの注目度はNo.1
日系ITベンダーのオフショア開発先は、中国が全体の約8割強を占めている。しかし、近年では、中国の人件費の高騰や、政治衝突などのリスクを考慮して、インドやASEAN諸国への注目が高まっている。そのなかでも、ベトナムの注目度が最も高い。
情報処理推進機構(IPA)の「IT人材白書 2013」によると、2012年の国内IT企業のオフショア開発相手国は、中国が1位の83.6%、ベトナムとインドが19.2%で同率2位となっている(複数回答)。取引額では、調査対象229社の総額975億5500万円のうち、中国が844億4000万円で、インドが37億6500万円、ベトナムは3位の15億1600万円だ。金額ベースではベトナムは大きくはない。しかし、「今後のオフショア開発で新たに検討している国や興味のある国」という項目では、ベトナムを選択したITベンダーは最大の31.5%で、次いでインドが20.6%、中国が16.7%となっている。今後の最大の注目株は、ベトナムとみて間違いない。とくに、中堅・中小(SMB)のITベンダーが高い関心を示しており、従業員数が101~300人のITベンダーは、42.3%がベトナムを選択している(図1参照)。
●コストだけではない魅力 
アイコニック
安倉宏明 社長 では、なぜベトナムが一番の注目の的となっているのだろうか。ベトナムでIT企業向けに人材紹介サービスを提供しているアイコニックの安倉宏明社長は、「コストが安いことと、人材の供給量が増えていること、地理やベトナム人の国民性が、関心を引く要因となっている」と説明する。
オフショア開発では、当然ながら人件費の安さが、最も重要視される要素だ。中国やインドとの比較では、ベトナムのITエンジニアの人件費は約6割程度といわれており、周辺のASEAN諸国と比べても、一部の国を除いてベトナムの人件費は安い(図2参照)。安倉社長は、「例えば、ホーチミン市のIT技術者の平均月額給与は、新卒者が約300ドル、スマートフォンアプリを開発できるエンジニアが約700~1000ドル、日本語を話すことができるエンジニアが約1500ドル程度。人件費が今の倍になっても、コストでの競争力は失われはしないだろう」と説明する。
ベトナムのIT技術者の数は、2010年が4万9024人で、中国やインドの30分の1程度と、けっして多いわけではない。しかし、ハノイ工科大学やホーチミン工科大学がIT技術者を育成するための特別コースを設けるなど、近年は優秀な人材が増えている状況にある。ベトナムの人口は9000万人弱だが、平均年齢は27歳前後とかなり若い。若者が多数を占めることもあって、スマートフォンアプリなど、最新技術を手がけることができる人材が比較的多くなっている。日本語ができる人材も増加中だ。ベトナム人の日本への留学生は11年に4033人で、国別では4位。増加率も12.1%で1位だった。帰国後、対日オフショア企業を設立する人も少なくない。
地理的には、インドや他の人件費が安いASEAN諸国よりも、アクセスがよくなっている。例えば、ASEAN地域でベトナムよりもコストが安い国にはミャンマーがあるが、空路では直行便がほとんどない。また、ネットワークなどのインフラの整備も遅れていて、オフショア開発を開始するための基盤の整備が追い付いていない。
国民性でいえば、「ベトナム人は勤勉で、親日的。他のASEAN地域よりもおとなしい性格の人が多くて、日本人にも親しみやすい」(安倉社長)という。
このほかにも、政府が優遇政策を設けている。ソフトウェア業を手がける企業は、法人税の4年間免税、9年間の減税といった優遇措置を受けることができる。ベトナム政府は、IT産業の育成に熱心で、11年には前年比601.2%増の4億9600万ドルを情報・通信業に投資している(JETRO)。

IPA
IT人材育成本部
片岡晃 次長 ただ、コストや地理、文化などの側面がすぐれているといっても、ITエンジニアの技術力はそれほど高いわけではない。「優秀な人材は、一部の上位校出身者や、すでに経験のある技術者に限られており、平均してみれば、中国の技術者のレベルを大学生にたとえるなら、ベトナムはまだ小学生程度といったところだ」(IPA IT人材育成本部の片岡晃次長)という。実際、「IT人材白書 2012」では、国内ITベンダーのうち、ベトナムをオフショア開発先として選定する目的として、「高い技術力の活用」と答えた企業は3.8%しかなかった。
また、「勤勉な国民性ではあるものの、残業する文化がなく、仕事が終わっていなくても就業時刻ぴったりに退社する。指示を受けた業務はきちんとこなすが、自分から考えて行動しようとしないなど、ベトナム人特有の就労文化もある」(片岡次長)という。
このように、メリットとデメリットを抱えるベトナム。それでは、実際に日系ITベンダーは、どのようにオフショア開発先として利用しているのだろうか。以下、その実情を紹介する。
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