【大手ITベンダー】あくまで「チャイナ・プラス・ワン」
●言語の壁は厚い 
NEC
ソフト・ソリューション資材部
中河恒夫 部長 従来から中国を中心にオフショア開発を進めてきた大手ITベンダーは、一国集中型のオフショア開発ではリスクが高いとみて、「チャイナ・プラス・ワン」の位置づけとしてベトナムを活用している。それも、ただの開発拠点として利用するだけでなく、日系企業を中心に、現地でのSIビジネスを並行して展開している。
NECは、グローバルで約6500人のオフショア人材を抱えている。発注額の国別内訳では、中国が73%、インドが14%、フィリピンが4%で、ベトナムは2%と少ない。中国については、日系企業向けSI案件を中心に四つのグループ会社のほか、12社のパートナー企業を主な発注先として使用。インドについては欧米向け製品の開発拠点として活用しており、「現在、最も力を入れていて、人員を1000人にまで増強する予定」(NECのソフト・ソリューション資材部・中河恒夫部長)。
これに対して、ベトナムではNEC Vietnamを2006年に設立し、日系企業向けSI案件だけでなく、現地向けSIビジネスを展開している。従業員数は、約150人だ。中河部長は、「実は、ベトナムでは、思うようにビジネスが進んでいない」と実情を語る。ベトナムは、対日オフショア開発では、中国を補完する位置づけであるが、IT技術者の総数と日本語の能力では、中国の代替とはならないからだ。「例えば、仕様書を日本語に書き直す作業は、中国であれば漢字文化があるのでできるが、ベトナムだとできない。また、ベトナムの従業員数は約150人なので、大規模な案件を発注すれば、人材リソースが不足してしまう」(中河部長)。また、人員を増強しようにも、「エンジニアの技術レベルは中国ほどではなく、得意な技術的な領域が当社の求めるところと食い違っていたりする」という実情がある。
だから、NECは「将来のために、ベトナムでは、なんとか食いつないでいる状態」(中河部長)という。開発拠点というよりも、ベトナム国内に進出する日系企業が増えて、現地向けのSIビジネスの機会が増えることを待っているわけだ。
●大規模開発には向かない NTTデータも、ベトナムはあくまで「チャイナ・プラス・ワン」の位置づけだ。NTTデータでは、欧米向けオフショア開発拠点としてはインドを活用し、約1万人の開発人員を擁している。一方、対日オフショア開発の発注先は、約9割が中国で、その他地域は1割にも満たない。ベトナムもその他地域の一つという位置づけにすぎず、「中国への一極集中のリスクを緩和するために、インド・ベトナム・ミャンマーを次の拠点として育てている」(ビジネスソリューション事業本部グローバルソフトウェア開発ビジネスユニットの小林義幸統括部長)。NECと同じく、ベトナム現地法人の人員は約150人で、対日オフショア開発と並行し、物流ソリューションや税関向けシステムを強みとして、現地日系法人向けのSIビジネスを展開している。ビジネスソリューション事業本部グローバルソフトウェア開発ビジネスユニットの土屋茂樹企画担当部長は、「ベトナムは、ASEAN地域のなかでは最も有力視されるオフショア拠点だが、人材リソースが限られているので、大規模な案件を発注するのは厳しい」と説明する。そこでNTTデータでは、2015年度をめどに、ミャンマーとベトナムの人員を500人に拡充する予定を立てている。
日立システムズも、中国一国に集中するオフショア開発のリスク軽減を狙いとして、ベトナムを利用している。日立システムズは、自社でオフショア開発拠点を設けずに、現地パートナーを通して開発を進めている。中国では、大連、広東、済南の現地パートナーを通して、約440人の人材リソースを確保している。一方、ベトナムのオフショア開発比率は中国の5~10%程度で、主に現地最大手のFPTソフトウェアと、対日オフショア開発を専業で手がけるFUJINETを活用。今後はベトナムの比率を20%程度まで拡大する予定ではあるものの、中国の代替として活用する方針ではない。日本語力の欠如や、優秀な人材確保が難しくなっていることがその理由だ。

NTTデータ ビジネスソリューション事業本部グローバルソフトウェア開発ビジネスユニットの小林義幸統括部長(左)と土屋茂樹企画担当部長
FPTソフトウェア
グエン・タン・ラム社長 また、大手ITベンダーの多くは、自社グループの開発拠点以外のオフショア発注先として、ベトナムでは、FPTソフトウェアを利用しているケースが多い。FPTソフトウェアは、従業員数約5000人を抱える現地最大手のソフトハウスで、「日系企業向けに特化しており、売り上げの約50%が日本企業からの案件。取引している日系ITベンダーは約100社ある」(グエン・タン・ラム社長)。
FPTソフトウェアは、親会社のFPTコーポレーションがFPT大学を運営しており、優秀なIT技術者を確保しやすい環境を整備している。そのうえ、開発者の人員が多いので、大手ITベンダーからすれば、大規模案件を発注しやすくなっているわけだ。
しかし、グエン社長は、「対日オフショア開発で、ベトナムが中国の代替となることは期待していない」という。ベトナムのIT企業は、FPTグループのほぼ一強体制となっており、他のIT企業は規模が大きくない。潤沢な人材リソースを提供できる企業が少ないこともあって、大手ベンダーが発注する案件は限られる状況にある。
【SMBベンダー】小口案件に最適
●中国進出はもう遅い 
ISBベトナム
伊藤修 社長 大手ITベンダーが、ベトナムを「チャイナ・プラス・ワン」として利用しているのに対して、これまで海外に多くの開発拠点を展開してこなかった中堅・中小(SMB)のITベンダーは、ベトナムをオフショア開発の本拠点として利用しようとしている。アイコニックの安倉社長によると、「2012年に、約20社の日系ITベンダーに対して、ベトナムでオフショア開発事業を行うための支援をして、ベトナム人開発者の紹介を手伝った。この勢いは今も止まってはいない。それも、スタートアップする企業のほとんどが中堅・中小のITベンダー」という。また、前述の通り、とくにベトナムに高い関心を示しているのは、従業員数101~300人の企業となっている。これには、理由がある。
まず、これまで中国に進出していなかった企業にとってみれば、いまや人件費の上昇している中国に開発拠点を設けても、コスト面で利点がないことは明白だ。2003年にベトナムに開発拠点を設けたISBベトナムの伊藤修社長は、「03年の時点で、中国に進出するのでは、他社に遅れをとっている状況だった。それよりも、競争相手の少ないベトナムのほうがメリットを感じた」と説明する。

オロ ベトナム
日野靖久
ゼネラル・ディレクター また、SMBベンダーにとって、ベトナムは中規模の開発拠点を設けるのに適している。IT技術者の数は、中国やインドと比べて30分の1程度なので、優秀な人材を数百人規模で確保することは難しい。しかし、技術者の品質にそれほどこだわらなければ、100人以下の人員は簡単に確保できる。今年3月に営業を開始したソフト開発のオロベトナムの日野靖久ゼネラル・ディレクターも、「人材を調達しやすい環境だ。応募したその日のうちに数十人から問い合わせがあって、その大半が東京大学のような上位校の人材」という。こうした理由で、ベトナムでは、従業員数約5000人を抱えるFPTソフトウェアを除けば、中間層はほとんどおらず、対日オフショア開発を手がける企業は、最大規模でも従業員300人程度」となっている。

ツインアース
ダオ・ミン・クアン
代表取締役 また、対日オフショア開発を手がける企業の多くは、ウェブシステムやスマートフォンアプリなどが案件の中心となっている。ツインアースのダオ・ミン・クアン代表取締役は、「ウェブシステムやスマートフォンアプリ開発は、短期間で開発することができ、人材リソースも大規模システム開発に比べれば必要ない。また、金融系システムなど、専門的な知識が必要なものと比べて高い技術が要求されないので、ベトナムのオフショア開発に適している」という。さらに、こうした開発案件では、日本国内で技術者不足が問題となっていることが、追い風となっている。リソース不足を少ないコストで補うことができるので、メリットは大きい。ベトナムは、平均年齢が27歳前後と若く、最新技術を手がけることができるエンジニアが多いことも功を奏している。
また、ダオ代表取締役は、「それほど高い技術力が要求されない案件が中心なので、経験の浅い人材でも手がけることができる。当社では、こうした人材をベトナムの地方都市、クイニョンで採用することで、人件費を安く抑えている。月給1万5000円程度だ」という。
要するに、ベトナムは小規模な案件が最適なわけだ。「FPTソフトウェアのような大企業では、こうした小口案件は扱ってもらえないケースがある」(ダオ代表取締役)という。
●人材獲得競争は激化 ただ、こうした中規模の対日オフショア企業が増えているなかで、課題は少なくない。
例えば、法人税面での優遇はあるものの、税制の仕組み自体は複雑で、VAT(付加価値税)やRED(レッドインボイス)など、日本にはない仕組みが多い。「法改正の頻度も高く、対応するのが難しい。しかも情報が役所に伝わっておらず、役人が法改正を知らないこともある」(日野ゼネラルディレクター)という。
さらに、ベトナムのITエンジニアは、「離職率が高く、20%の人材は採用から1年以内に辞めてしまう」(ダオ代表取締役)という。人材を育成するための仕組みも欠かすことはできない。また、オロベトナムの日野ゼネラル・ディレクターは、「人材の獲得競争がすでに始まっていて、経験豊富で優秀なエンジニアは採用しにくくなっている。当社では、採用する人材を新卒者に絞っている」という。こうした人材の獲得競争は人件費の上昇を引き起こす要因となる。
現在のところは人件費が安いものの、高騰するのは時間の問題だ。コストメリットだけを目的に、ベトナムを利用することは得策とは言い難い。ただ、人件費の高騰は、同時に購買力の向上にもつながる。そうなれば、ITベンダーにとって、ベトナムはSIビジネスとしての魅力的なマーケットになる。大手ベンダーは、すでにそのために体制を整えているが、SMBベンダーは、まだ低コストを大前提としたビジネスに特化しているケースが少なくない。IT技術者の離職率を抑えて、長期的な育成に努め、高度な案件にも対応できる体制を整えていく必要がある。これまで海外に拠点を設けていなかった企業にとって、ベトナムで成功を収めるためには、こうした困難を乗り越えることが必須となっている。