●第三次産業拡大の波に乗れ
クオリカ上海
水沼充 総経理 2007年に上海法人を開設したクオリカは、当初、製造業向けに鋳造シミュレーションソフト「JSCAST(ジェイエスキャスト)」を細々と販売していた。歴史があって専門性が高い製品ではあるが、もともとニッチな分野なので、これで大きく売り上げを伸ばすことは難しい。その後、中堅・中小製造業向けにクラウド対応の生産管理システム「AToMsQube(アトムズキューブ)」を投入。中国での生産が拡大していた時期と重なったこともあって、引き合いが急増した。これまで20社を超える顧客への納入を果たすなど、クオリカの中国事業に弾みをつける製品となった。
そして、今、最も売れているのが外食産業向け営業支援の「TastyQube」だ。第三次産業振興への中国政府の旗振りもあり、中国で急速に拡大が進む外食産業のニーズに合致した。3年前、『週刊BCN』の記者が当時のクオリカ上海法人副総経理に取材したときは、「TastyQubeは、まだ中国には早い印象を受ける」との反応だったが、この上期(2013年1~6月期)をみると「TastyQube」は前年同期比で約8倍。通期ベースでも「向こう数年は年率2倍~3倍でTastyQube関連の売り上げが伸びる見通し」(クオリカ上海の水沼充総経理)と、大ヒットにつながった。
鋳造の「JSCAST」で足がかりを築き、生産管理の「AToMsQube」で弾みをつけ、外食向けの「TastyQube」で売り上げを一気に伸ばす“三段跳び”のクオリカの戦略は、「海外ビジネスで最も成功している1社」(ITHDの前西規夫社長)として、ITHDグループのなかでも高く評価されている。中国の市場の変化に合わせて、絶妙なタイミングで主力製品を投入し、売り上げを伸ばした。一つの製品がうまくいくかどうかにかかわらず、潮目の変化に即応し、すぐに主力製品を入れ替える俊敏さ、適応能力の高さは、中国市場でビジネスを進めるうえで見習いたいところだ。
●「ヒョウタン型」の中国消費市場
ヴィンクス
上海法人
黄曉 董事長 中国のサービス業で業績を伸ばす日系SIerは、ほかにもある。富士ソフトグループのヴィンクス上海法人は、流通・小売り関連の売り上げがおよそ9割を占める。今年度(2013年12月期)売上高は、昨年度とほぼ同じ1.5倍ほどの伸びを見込む。中国の情報サービス市場は年率25%の水準で伸びていることを勘案すれば、市場の伸びを上回る伸び率を維持していることになる。
ヴィンクス上海法人の黄曉董事長は、中国消費市場について「ヒョウタン型」だと分析する。つまり、小売りや外食でまとまった金額を支払える消費者と、財力で大きく劣る消費者とが二分化して、ヒョウタンのような形になっているというのだ。あくまでも感覚的な印象と前置きしたうえで、「ヒョウタンの上の部分に相当する総人口の1~2割の人たちが全体の半分くらいの消費を賄っているのではないか」と推測。つまり、GDPを人数割りして平均を求めたような単純なボリュームゾーンを狙おうとすると、中国では最も消費者の少ない層に突き当たって、ビジネスはうまくいかないことになる(図2参照)。

シーエーシー
上海法人
小峰邦裕 副総経理 中国のボリュームゾーンである上位層の顧客をターゲットにするなら、日本や欧米と変わらない上質なサービスの提供が求められることになり、このサービスを支えるためのまとまったIT投資が行われるというのだ。中間層が薄く、下位層はそもそもIT化が進捗していない。IT化投資に積極的な企業をみつけたとしても、中国地場のSIerとの価格競争に巻き込まれ、日系SIerはまず勝てない。当然ながら、日系SIerの強敵となる欧米系ITベンダーもこうした中国の市場構造を熟知しており、「少し気を抜くと、近しい関係にある日系ユーザー企業ですら、欧米系や中国の地場有力ベンダーに横取りされかねない」(同)というように、世界トップレベルのITベンダーが中国のサービス業界を巡って死闘を繰り広げている状況だ。
また、IT投資は、大きく分けて公共、金融、産業に分かれるが、中国の場合、公共と金融の基幹系に日系SIerが食い込むのは至難の業だ。不可能ではないかもしれないが、政治的な影響を受けやすいという意味でリスクが高い。産業分野は、サプライチェーン全体を含んだ高次元な製造分野や、流通・サービス業が有望で、前述のように成功を手にする日系SIerも現れ始めている。金融はすべてがダメというわけではなく、サブシステム系やリースや債権管理、クレジットなど、ノンバンク系なら日系SIerの活躍の余地は決して小さくはない。
●金融はノンバンクに望みつなぐ
日立システムズ
市場戦略
営銷センター
藤本昌也 副総経理 金融に強いシーエーシーは、銀行間の取引システムで、基幹の勘定系システムへつなぎ込む「接続システム」にチャンスを見出している。シーエーシー上海法人の小峰邦裕副総経理は、「これまで人手で行っていたような接続系やサブシステム系の自動化は、省力化だけでなく、ミスを減らすという意味でも効果が大きい」として、金融業だけでなく、広く民間企業一般の決済システム需要にも応えていく。日立システムズの実質的な上海事務所に相当する日立信息系統日立システムズ市場戦略営銷センターの藤本昌也副総経理は、「ノンバンク分野の発展は、中国ではまだこれから。参入の余地は大きい」と手応えを感じている。
記者の眼
膠着状態にある日中関係
それでもビジネスは伸ばすことができる
日中関係は「島」問題で政治的な膠着状態に陥っているものの、ビジネスは継続している。日系企業が「脱中国」に動き始めていると一部で噂されるが、大半は中国の人件費が高騰し、採算が合いにくくなった単純組み立て系の製造企業が、タイやベトナムなどのASEAN方面へ移転するケースのようだ。政治摩擦とは関係なく、早晩、中国から撤収せざるを得ない構図にあったというのが、日系SIerのほぼ一致した見方だ。
製造業と同様、情報サービス業でも、ソフト開発の単純なコーディング(製造)工程は、中国ではコスト的に厳しくなっている。従来型の対日オフショアは縮小均衡にならざるを得ず、また、日系企業へのITサポートしか眼中になかったり、地場の有力企業を開拓する営業体制を構築できない日系SIerのビジネスも、恐らく先細りになるだろう。
制約が多い中国だが、一方では市場も大きい。消費市場が上位1・2割の人口で、市場全体の半数を占めるといわれるほどのヒョウタン型であるなら、日系SIerの高品質なサービスを前面に打ち出し、トップ層を狙いに行く体力と意志が強く求められる。