ハードウェアを販売するビジネスは厳しいとする見方があるが、本当にそうなのか。クライアント端末でスマートデバイスの法人需要が増え始めているだけでなく、データのバックアップなどストレージ機器のニーズ、サーバーやネットワークでもリプレース需要がある。また、最近では垂直統合型システムの導入も進もうとしている。オンプレミス型のシステム提供には、まだまだビジネスチャンスがあり、ハードウェアを商材にするビジネスで儲けることができるはずだ。そこで、この特集ではハードウェアを「クライアント端末」「ストレージ」「サーバー」「ネットワーク」「垂直統合型システム」に分類し、それぞれの分野で利益を増やす方法を紹介する。(取材・文/佐相彰彦/本多和幸)
【クライアント端末】
「Surface」の導入を支援 パソコンのリプレース需要も開拓
クライアント端末については、最近、企業がタブレット端末を利用するケースが増え始めている。ユーザー企業は、iPadやAndroid端末を導入して、営業担当者のワークスタイルの変革や、店舗スタッフの業務効率化などを実現しようとしている。そんななか、ユーザー企業のすそ野を広げる可能性を秘めた端末の販売が開始された。その端末とは、マイクロソフトの「Surface」だ。法人向けに、「Pro」と「RT」の2種類を用意した。

クライアント端末の需要増に「Surface」がどれだけ寄与するかが気になるところただ、SIerがタブレット端末を販売するにあたっての課題は、ユーザー企業がタブレット端末を管理・運用するうえでの問題だ。端末の初期設定から管理まで、タブレット端末をどのように管理すればいいのかがわからないという企業が多かった。そのため、敷居が高いと思うユーザー企業も少なくない。そうした問題を大塚商会が解決した。Surfaceの販売に際して、「Surfaceおまかせ運用メニュー」の提供を開始したのだ。
「Surfaceおまかせ運用メニュー」は、初期設定の代行をはじめ、ユーザー企業がさまざまなサービスやサポートを組み合わせて導入することができる。下條洋永・マーケティング本部MSソリューショングループ課長は、「これまで当社が提供してきたワンストップサービスをSurfaceでも実現したことになる」としている。
また、タブレット端末はこれまでパソコンのサブマシンとして使われる傾向があったので、SIerはユーザー企業にパソコンの買い増し、つまり2台目需要を開拓する必要があった。この点について下條課長は、「Proであれば、パソコンと同じ性能なので、メインマシンとして業務に使うことができる。RTで2台目需要を開拓しながら、ユーザー企業のパソコンリプレースのタイミングをみてProを提案していく」との方針を示す。
【ストレージ】
XP移行の一環でNASを売る パソコンの販売増にもつなげる
クライアント端末は、Windows XPのサポートが2014年4月に終了することに伴って、パソコンのリプレースが急増するとみられている。パソコンをリプレースするにあたって、ユーザー企業が悩むのはパソコン内にあるデータの一時的な保存をどうするかだ。システム管理者にとっては、各社員のパソコンを1台1台入れ替えていくとすれば、かなりの労力をかけなければならないことになる。このような悩みを解決するツールを提案して、ストレージ機器の販売につなげようとしているのがバッファローだ。ソフトメーカーのAOSテクノロジーズと協業して、AOSのデータ移行ソフト「ファイナルパソコン引越し」と、バッファローのNAS(ネットワーク・アタッチド・ストレージ)「テラステーション」を組み合わせ、SOHO(個人事業主)やSMB(中堅・中小企業)など、従業員300人未満の企業を対象に新規顧客の開拓を図っている。

他社製品と比べてリーズナブルな価格でXP移行サービスには欠かせない製品に浮上した「テラステーション」販売は、バッファローが構築している2次代理店への支援制度「VARパートナープログラム」に参加しているリセラーやSIerを通じて行っていく。「テラステーション」は、10万円以下のモデルを揃えており、法人向けストレージのなかでは低価格だ。しかも、他社が提供しているXP移行サービスなどと比べても価格が安いことから、ユーザー企業がパソコンを買い替えるという本命のビジネスを販社がものにできると判断している。
【サーバー】
高まるLinuxへのニーズに対応 マルチベンダー化がカギを握る
調査会社のIDC Japanによれば、今年4~6月の国内サーバー市場は928億円で、前年同期比13.1%減だった。これは、RISCサーバーが縮小傾向をたどっているためだ。x86サーバーに関しては、出荷台数は減少したものの出荷額はプラス成長。ユーザー企業が価格の高い上位モデルを選んでいるということだ。SIerにとっては高機能のサーバー導入によるメリットを訴えていくことや、ユーザー企業の要望に応じて適した製品を提供することが重要になり、そのためにはマルチベンダー化がカギを握ることになるだろう。
1983年から2006年まで、日本IBMと資本提携の関係にあったJBCCは、依然として日本IBMの有力な販売パートナーであることに間違いはないが、サーバービジネスで、オープンソースへの対応やマルチベンダー戦略へのシフトなど、新たな方針を示してビジネスのボリュームを拡大しようとしている。

JBCCのサーバービジネスを押し上げる可能性があるIBMの「PowerLinux」同社のユーザー企業は、中堅規模の企業が多く、POWERプロセッサ搭載のサーバー製品群「Power Systems」では、ミッドレンジコンピュータシステムの流れを汲むIBM製OS「IBM i」の販売実績が約3分の2、残りをUNIXのAIXが占める。しかし近年、こうしたユーザー層でベンダーロックインを嫌う傾向が顕著になり、「サーバーを含めたシステムを提供するSIerには、経済性や生産性の向上が一層求められるようになっている」(近藤隆司・執行役員マーケティング担当)という。
そこで注目しているのがLinuxだ。近藤執行役員は、「コストパフォーマンスを高めながら競争力のあるシステムを構築できるオープンソースのLinuxが、サーバーOSとしてさらに普及する」とみている。こうした観点から、Linuxをx86サーバーと組み合わせて提案しているのだが、JBCCのx86サーバー販売台数は、1年間で2000台程度(2012年の国内サーバー出荷台数は55万台)で、システム製品事業でのプレゼンスは小さい。しかし、3年前から日本ヒューレット・パッカード(HP)とパートナー契約を結び、HP製のx86サーバーの取り扱いも始めている。具体的な数字は試算していないものの、「Linuxの取り扱いはかなり早くからやっているし、ハードのラインアップを拡充することで、x86サーバーの売り上げはかなり伸ばすことができる」という自信をもっている。さらに、「Power Systems」で、これまで取り扱っていなかったLinux対応の「PowerLinux」をラインアップに加えることも検討し、オープンソースへの対応を強化する。また、基幹系以外の自社システムをLinuxで構築し、ノウハウの蓄積に努めている。その成果を、サーバー製品の拡販につなげていく。
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