パートナーが取り組むERPのクラウド化
ソフトベンダーがクラウドネイティブなERPを提供する例はまだ限られている。例えば、SAPに次ぐビジネスソフトウェア大手であるオラクルは、「(エンタープライズ向けの)EBSにしろ(中堅向けの)JDEにしろ、ERPをSaaSで提供する方針はいまのところない」と明言している。一方で、販売パートナーがERPパッケージを独自にクラウドに乗せてサービスを提供する取り組みは増加している。
●[Case 1]パシフィックビジネスコンサルティング
「Dynamics NAV」を独自にローカライズ 
小林敏樹 社長 マイクロソフトには、「Dynamics」という業務アプリケーション群があり、ERPも複数製品ラインアップしている。しかし、日本マイクロソフトがローカライズしているのは「Dynamics AX」だけ。もう一つの有力ERP製品である「Dynamics NAV」は、実は有力販売パートナーであるパシフィックビジネスコンサルティング(PBC、小林敏樹社長)が独自にローカライズしている。
PBCは、「Dynamics NAV」(旧Navision)のもともとのベンダーであるデンマークNavision社がマイクロソフトに買収される前から、このソフトウェアの販売パートナーとして実績を積んできた。すでに200ユーザーへの導入実績がある。また、Navision社は「Dynamics AX」(旧Axapta)のベンダーでもあったため、「『Dynamics AX』を日本で扱ったのも一番早かった」(小林社長)という。いずれも、やはり日本企業の海外拠点向けに納めたケースが多い。
今年10月には、「Dynamics NAV」のクラウドサービス「NAV-CLOUD」も開始した。月々定額料金で利用でき、料金にはライセンス料、保守費用、アップグレード費用が含まれるSaaSのサブスクリプションモデルで、1ユーザーから利用できる。こうしたモデルは、「Dynamics AX」ではまだ実現していない。
小林社長は「Dynamics NAV」について、「生産管理と会計の連携や監査への対応、強力な多通貨対応など、『Dynamics NAV』は他のベンダーの製品と比べて機能面も非常に充実しているERPだ。ローカライズエリアはAXよりもずっと広く、126か国に対応しており、各国のパートナーは3700社にのぼる。そうしたパートナーと連携して、日本企業の海外進出を的確に支援できる」とアピールする。さらに、「AXよりも小規模なユーザーが対象ではあるが、非常に幅広いユーザーをカバーできる製品。スモールスタートでスピーディな稼働が可能で、導入費用は圧倒的に安い」と話し、クラウドとの親和性が高い製品であることを強調する。
当面は、アジアに進出する企業向けに、「NAV-CLOUD」を訴求していく。「NAVはマイクロソフト自身がローカライズしていないこともあり、SIerなどにもほとんど知られていない」(小林社長)というが、これまでERPパッケージに手が届かなかったユーザーなども対象に、パートナーの拡大も視野に入れつつ、拡販のドアノックツールとして活用していく意向だ。
●[Case 2]京セラコミュニケーションシステム
後発の利でクラウド活用 
谷口直樹
ERP事業部長 京セラコミュニケーションシステム(KCCS、佐々木節夫社長)がERP事業に着手したのは、2009年のこと。かなり後発だ。そんな同社が市場開拓のための「武器」として手にしたのがクラウドだ。インフォアジャパン、KDDIシンガポールとの協業で、東南アジアで事業展開する製造業向けに、SaaS型のERPソリューション「KCCS Cloud Service for Infor SyteLine」を提供する。必要な機能を月額料金で使うサブスクリプションモデルだ。
具体的には、KDDIシンガポールのデータセンターをインフラとして使い、インフォアの中堅・中小規模製造業向けERPパッケージ「SyteLine」に、現地の商慣習・制度やグループ内連結経営管理にも対応したKCCSのアドオンモジュールを付加して提供する。日系企業のインフラを使い、豊富な周辺オプションを用意。アドオンにも柔軟に対応するなど、「日本企業好み」のサービスといえそうだ。
ERP事業を統括する谷口直樹・ソリューション事業本部西日本ソリューションビジネス事業部長兼ERP事業部長は、「単にERPをクラウドで使うだけでは特徴が出ない。当社の海外拠点からの手厚いサービスを含めて、ワンストップでERPの導入・構築・運用を丸抱えする。ただし、アドオンを推奨しているわけではなく、用意しているサービスでは固有の要件に合わない場合でも安心して使ってもらえるということ」と、サービスのコンセプトを説明する。
なお、同社はその言葉通り、すでに今年4月、シンガポールに100%子会社「Kyocera Communication Systems Singapore Pte. Ltd.」を設立し、すでに現地での体制を整えている。
いずれにしてもKCCSは、ERPを「クラウドでやり切る」と覚悟を決めている。谷口事業部長は、「まずは初年度に5ユーザーの獲得を目標にしている。そこから毎年2ケタ増やしていきたい。現地でのセミナーではユーザーの反応も良好で、すでに受注が決まった案件もある。ターゲットが業種とリージョンではっきりしていて、それに最適な商材をラインアップしているという自負はある」と話した。
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