アベノミクス効果で景気回復ムードに沸いた2013年。2020年の夏季五輪開催地が東京に決まり、富士山が世界文化遺産に登録され、楽天の田中将大投手が不敗神話を築いた……。日本を元気づけるさまざまな出来事も景気回復ムードを加速させた。IT分野に目を向ければ、マイナンバー法の成立、インターネット選挙運動の解禁、そしてビッグデータ活用に向けて個人情報保護法改正の議論が始まるなど、社会的に注目される年となった。こうしたなかで『週刊BCN』は何をどんなかたちで報じてきたのか。2013年を総決算する。この総括を通じて、新しい年の市場の動向と、それに呼応する業界の動きを予測する手がかりをつかんでいただきたい。(構成・文/畔上文昭)
国もIT業界も大きく動き出した2013年
●最先端IT国家へ 6月14日、政府は成長戦略の柱として「世界最先端IT国家創造宣言」を閣議決定した。今度こそ、世界最高水準のIT利活用社会を実現しようというわけだ。議題として取り上げられた「オープンデータ」は、その後に注目度が高まっていく。こうしたなかで「市場規模5.5兆円」が独り歩きしていった。
もう一つ、注目されたのが5月24日に成立した「マイナンバー制度」(社会保障・税番号制度)だ。中央官庁と自治体を合わせて約2700億円という初期投資が話題となった。すでにマイナンバー制度がらみの調達案件が動き始めている。
このほか、政府は2020年度(2021年3月期)までにすべての小中学校の全児童生徒にデジタル教科書を配布することを目標に掲げた。これに伴い、文教市場向けビジネスが拡大していくことになりそうだ。
5月31日には政府CIO法が施行され、初代政府CIOに遠藤紘一氏が就任した。何かと課題の多い電子行政の推進。民間から採用された遠藤氏の手腕に期待がかかっている。
●農業や漁業、医療に進出 農業や漁業は、高齢化が進んでいるうえに、就労人口が減少して生産額が落ち込むという課題を抱えている。その解決策としてIT活用による効率化などが挙げられるが、他産業と比べて遅れているのが実のところだ。しかし、この状況が変わるかもしれない。ポイントは、手軽に使えるクラウドサービスの登場にある。この未開拓市場を切り開こうとするITベンダーは、クラウドを活用してサービスを提供していこうとしている。
医療ITビジネスも着実に成長している。病院や診療所、介護施設、調剤薬局などの地域ごとの連携が一段と進み、訪問医療・介護で積極的にモバイルを活用する動きが活発になってきた。ITベンダーは、有望な市場に向けて医療ITの商材開発にしのぎを削っている。なお、マイナンバー制度と医療制度の関係は2014年以降に議論が進む予定である。
●変貌を遂げるSIer アベノミクス効果により、SIerのビジネスも活気づいた。今後も成長する余地は十分にあるだろう。ただ、情報サービス業にとって、国内市場の成熟化の影響は避けがたい。大手SIerを中心に、世界やアジア全体の市場を視野に入れた経営戦略を重視する傾向がみられるのは、そのためだ。2013年は、大手SIerのアジアにおける活動エリアの広域化がより鮮明になってきた。大手SIerの海外志向は、今後も強くなりそうだ。
準大手や中堅・中小のSIerは、新ビジネスやアイデアビジネスの立ち上げに意欲的に取り組んでいる。とくに自らの強みを伸ばすことで勝ち残りを目指している。得意とする業務システムを別の業種へ横展開したり、実績のあるアウトソーシングのノウハウをクラウド分野へ応用したりなど“強みの横展開”を推進していくことで競争優位性を高めようというわけだ。オンリーワンの強みを生かせる領域で勝負することで、大手の猛攻をかわしながらビジネスを伸ばす戦略である。
●オフショア開発先は多様化 円安傾向が続くとともに、オフショア開発の発注先のおよそ8割(金額ベース)を占める中国の人件費が高騰したことにより、SIerは新たな発注先を模索している。同時に「オフショア開発そのもののあり方、存在意義」を定義し直す根本的な開発体制の転換も視野に入れるようになった。
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