新生石巻、ICTでつくる
問われる「ビジネス化」
「石巻スマートシティ」を成功させるために欠かせないのは、ビジネスとしての仕組みをつくることだ。以下、事業化に向けた動きを分析して、スマートシティの可能性を検証する。
●短期間での実現は難しい 石巻市でスマートシティの構築を担当しているのは、都市計画課ではなく、復興政策部に属する新産業創造課である。モデル地区でHEMSを装備した住宅を建てるという「第一弾」を経て、今後は市全体でスマートシティを構築し、新しい産業をつくり出す構想が動きだしている。
現時点でみると、スマートシティの事業としての規模はまだ小さい。蛇田など四つのモデル地区で国の支援金を用いてエネルギー管理システムを構築するために動いているお金は「数十億円程度」(新産業創造課の松崎泰政主査)と、参画している東北電力や東芝にとって、決して大きな金額ではない。しかも、国の支援金支給は16年3月で終了する。後およそ2年でビジネスモデルを考えて、スマートシティが事業として成り立つ仕組みをつくらなければならない。

建設が進む一方(左後ろ)、復興作業が手つかずの場所もある(右前) 震災後から、日本IBMやNTTデータなど、大手ITベンダーが石巻に“進出”し、スマートシティ構築のケーススタディづくりを目指している。日本IBMは、米国本社が石巻を支援対象に選んで用意した予算を使い、2013年2月に石巻事業所を開設した。NTTデータも入居している「石巻ビルディング」にオフィスを設けている。両社とも、「現時点ではお話しできない」として取材を受けない。はたして、ITベンダーの石巻での取り組みはどのくらい進んでいるのか。
市役所でスマートシティの施策をコーディネートする松崎主査は、「現在、市のスマートシティ事業に参加しているITベンダーは東芝だけ」と明かす。日本IBMは、支援金の申請などに関して市を支援しているが、それらは「サポート」であって「事業」には至っていないようだ。松崎主査は、「これからICTをいろいろ活用したいと考えているが、具体策は検討中」と述べる。市の予算が限られていることもあって、短期間でのスマートシティの実現は難しそうだ。
●儲かるかどうかがカギ 取材は断られたが、少しでも情報を得ようと、石巻ビルディングに飛び込む。日本IBMでは、東京本社在籍のコンサルタントが対応するが、「所長が不在なので」情報を提供できないという。NTTデータ東北にも「担当は仙台オフィスにいるから」といわれ、門前払い。自社の動きを一切見えないようにしている対応ぶりからは、日本IBMやNTTデータではスマートシティの取り組みが難航しているという印象を受けずにはいられない。

中央通りに面する「石巻ビルディング」に、日本IBMやNTTデータ東北が事業所を構えている しかし、ITベンダーが存在することだけでも、市にとっては心強い。新産業創造課を率いる近藤順一課長は「絶対に逃げられないよう、パートナーシップに力を入れる」と強調する。市が描くイメージでは、居住ゾーンのほかに、中心市街地や公共施設、海岸の方面の工業団地地区や水産加工地区においてもICTを活用して、事業の創出を図る(図1参照)。こうした本格的なスマートシティを実現するためにも、ITベンダーと密なパイプを築く必要がある。
近藤課長は「市の立場ばかりを主張せず、ITベンダーの視点も取り入れて、両立を図りたい」として、連携を強化することに動くという。
石巻の中心部では、ところどころで住宅やビルの建設が進んでいるが、一方で復興作業が手つかずの場所も残っているというコントラストが際立っている。市民に話を聞くと、面積が狭い松島や女川と比べて、広大な石巻は「ながなが復興が進まない」と、地元の訛りで不満を口にする人が多い。地盤が激しく揺れ、巨大な津波が街を襲ってから3年。いち早くITベンダーの利益を生み出すスマートシティの事業モデルを打ち出し、新生・石巻をつくることが求められている。
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